第43話

それからもたまに頭痛がすることはあったものの、特に気になるほどのものでもなかったので、二人とも心配しなくなっていた。


その日は休日で洋服を探しに近くのショッピングセンターまで来ていた。


「奏斗さんどれが似合うと思う? これとこれだったらどっち?」という定番の質問にも奏斗は真面目に全て答えていたし、陽向は必ず選ばれた方を買っていた。


「女って決まったものがあってそっちを選んで欲しくて訊くんじゃないのか、そういうの」と訊いてみるも「奏斗さんに可愛いと思われる洋服が良いから良いの! 私の基準は奏斗さんなの」と返されてため息をつくことになった。何でそんなに素直に思っていることを全て言えるんだこいつは。



陽向の方も、奏斗が服をみている間はじっと待っていた。


「待ってる間好きなところ見に行っても良いんだぞ、こんな男物のつまらんもの見ていなくても」と言っても


「奏斗さんにどれが似合うか私も真剣に考えてるから楽しいの、それ似合いそう」と言ってきたのでくっついてくる陽向をそのままにしておいた。


「これはどうだ」「最高に似合う、これ買うならこっちのこれも買ってみたら雰囲気変わりそう」「なるほどな、あんまり買った事ない系統だがそれも買うか」と結局奏斗も相談して陽向が良いと言ったものは全て買っていた。




ショッピングモールの中に入っているペットショップでは、犬を抱っこさせてもらって緊張している陽向を見て微笑ましい気持ちになった。


「どうしよう、この子ちっちゃい、折れそう、生きてる、あったかいから生きてるけどどうしよう逃げたら。ちっちゃいけど生きてるよこの子」


緊張している人間に抱かれているのを犬の方も分かっているようで犬も緊張でブルブルしていた。その様子にまた笑ってしまった。


「どっちがどっちか分からんなこれじゃ」と言うと盛大にふくれた陽向が犬と一緒にされたくない、確かに可愛かったけど、と猛抗議してきた。だが悪かった、と言ってフードコートのクレープを奢ると、また嬉しそうなご機嫌顔に戻った。



これじゃ本当にどっちがどっちか分からんな、おやつに釣られるところまで一緒だ。と内心で思いつつ、その言葉は飲み込んでおいた。また陽向の機嫌が悪くなると面倒なことになる。今度こそ物に釣られなくなってしまうかもしれない、そうなったらしばらくは機嫌の悪いままだ。それを相手にするとこちらも多少素直になってやらんといけなくなる。それはまだ俺には難しい相談だ。そう思って奏斗は黙っておくことにした。

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