第38話

レストランで高級そうな料理に毎回目を輝かせる陽向を愛おしいと思いながらも、料理は終わりデザートの時間になろうとしていた。


「カトラリーの使い方勉強してきてよかった。すっごいおいしかったしトリュフとか初めて食べましたよ! 私これ食べたらいつもの自分で作るご飯に耐えられなくなっちゃいそう。ほっぺたついてますか?」


「ついてるついてる。ペアリングのワインも良いのだったけど陽向には強くなかったか? 酔ってない方がこちらとしてはありがたいんだが」


「ちょっとほわほわするけどそれくらいです、ちょこっとワインは残しちゃったんですけどこんな良いお店でベロベロになるわけにもいかないし。奏斗さんのお酒教育が効きました」


「それはこっちも普通に安心だな、飲める許容量が分かってれば最初みたいに潰れることもないし俺以外の前でそれされたらたまったもんじゃないからな。……デザートの前としたもんか」


そう言って奏斗は片付いた机の上に箱を置いて開け、「結婚してください。俺の傍に一生一緒にいるなら陽向が良い」と言った。

陽向もまた緊張をぶり返しながら「私も一生傍にいるなら奏斗さんがいいです、よろしくお願いします」と答えた。


さすがに奏斗も一世一代の告白には勇気が要ったようで、その答えを聞いて安心したように息をついてから陽向の指に二本目の指輪を通した。




その後に届いたデザートは二人とも緊張が解けていたためぶっちゃけ大会のようになっていた。


「しかしなんで俺みたいなやつについてきた」と訊く奏斗に「最初は大っ嫌いでした。怖いし睨むし」と返してさすがに不機嫌になられた。



「……でも、それくらい絞ってもらったからかいつの間にかこわごわやってたはずの仕事にプライドを持てるようになって、上司として超えたい人になって。


それであの最初の飲み会の日に助けてくれてちょっとかっこいいと思っちゃっていつの間にかそれが口から出てて。


その時はまだきっとあの日言われた通り意地って言うか、負けてたまるかみたいな気持ちで好きって言ったんですけど、それから奏斗さんがどんどん優しくなってきて素直に尊敬して本当に好きな人になって。


今は本当にこの人の傍にいられるのが幸せだなって、あの時の私間違ってなかったなって、思えるようになったんです。


奏斗さんがよくよく見てみれば優しくてちょっとさみしがりやなところもあるのだって今は分かってて、だから奏斗さんじゃなきゃ嫌です。そっちはどうなんですか」





「俺は次来るやつもきっと辞めていって俺のところにもう部下は回されなくなるんだと思ってた。


だから最後だと思ってかなりの量仕事は振ったし、俺なりにどこに行ってもやっていけるように絞った。でも陽向はついてきたし辞めなかった。


それが部下としての好意の最初だな。部下として守ってやりたいと思ったから最初の飲み会でもそうした。


でも酔っ払った部下が俺のことが好きだとか超えたいとか言いやがるから余計な意識までついてきた。


仕事に要らんもんだと思って振り払ったつもりだったが、半年経って陽向にまっすぐ好きだって言われて心が動いたんだよ、結局は最初から俺が負けてたようなもんだ。


陽向には結婚しても弱いままだろうな」



「それくらい、好きでいてもらってるって勘違いしても良いですか」


「勘違いじゃない、愛してるから一生傍にいたいんだ」


「奏斗さんも酔ってません?」


「酔ってるかもな、でもこれが本心だ。素面じゃ言えないところはご愛嬌だとでも思ってくれ」


二人は最後のスイーツまでしっかり食べきって手を繋いで家に帰った。

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