第36話
「全くうちの鬼同期は一度惚れたら性格変わっちゃうんだから。まあお前に彼女と思うと一生独り身を心配してた俺としては安心だから良いけどね。……で、プロポーズはいつになるの」
「そんなのお前に先に言うことじゃなかろう、お前に言った日には陽向に何を吹き込まれるか分からん」
「前半には同意するけど後半は聞き捨てならないな、これでも俺信頼されてるだろ? ……ああもうまた黙る。それだから後輩ちゃんがついてこないで折れるんでしょうが。少しは言葉にして褒めてやらないと後輩の心が折れるのが結果より先だぞ」
「陽向がなんとかしてくれるから「はいそこで甘えない。部下に甘えて自分の苦手を消すんじゃないよ、それはお前の課題であって彼女の課題じゃない。そこに関しては彼女の方が上だ、彼女はよく後輩のこと見てるしアドバイスもしてる。彼女がいるからお前の部下が辞めないんだ。分かれ」
奏斗はその言葉に苦い顔をして残っていた酒をあおった。「ちょっとお前図体でかいんだからあんまり飲むなよ、届ける俺の苦労を知れ。絶対潰れるなよ」
「知ったことか、今日はもう飲む」その宣言を聞いた林はため息をついて本郷と書かれた連絡先に「今日岩崎潰して帰るからちょっと迷惑かける」とさっさと連絡を終えて自分は飲むのを止めた。目の前の男は次々と度数の高い酒を注文しているので、覚悟して肩を回した。
数時間後、陽向の元に酔って見たこともないほどにでろでろになった奏斗が届けられた。
「ごめんね本郷さん、こいつちょっと仕事のことで俺に一言言われて、機嫌悪くして飲みに飲んだ。重たいと思うけどさすがに二人の家までは入れないからここからだけよろしく」
「はい、ありがとうございま……おっも、すみませんこの重さ運ばせてしまって。ありがとうございました」
林が帰ってから四苦八苦して奏斗をベッドまで連れて行く。
「……林聞いてんのか、俺の陽向は渡さんからな、こんな俺についてきてくれた女だ。一生手放す気はないぞ」
その言葉を聞いて真っ赤になった陽向だったが、なんとかワイシャツを脱がせようとしていたところで奏斗が起きた。
「あ、奏斗さん着替え「陽向、陽向か……」そう言うとこれまで見たこともないような安心した顔をして陽向をベッドに引きずり込んで抱きしめたまま寝始めた。
うわ、こんなに可愛い事ってあるの。私だって思って安心して抱きしめて寝るなんて、しかも林さんにもあの勢いで喋ってたの。なにこれ奏斗さん可愛い、写真撮りたい。
そう思ってスマホに手を伸ばそうとするも奏斗の重みから抜け出せずに十数分の格闘の上諦めてそのまま眠ることになった。
奏斗さん、覚えてるなら明日しばらく恥ずかしさで黙りっきりだろうな。でもいいや。こんな可愛いところ見られたなら一人で待ってるのもよかった。
その陽向の予感は的中して次の日奏斗は話すどころか、夕方まで陽向と目が合った瞬間に逸らすほどだった。
かわいい、奏斗さん絶対昨日のこと思い出して照れてる。絶対私のこと抱きしめて離さなかったの覚えてる。かわいい、かわいい。中学生みたい。こんな可愛いところがあったの、新卒の時の私に教えてあげたい。
奏斗の機嫌とは真逆に陽向はその一日を上機嫌で過ごして、何度も奏斗を構いに行っては追い返された。
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