第33話
埼玉の奏斗の実家に挨拶に行く時、陽向は緊張でガチガチだった。
「おい陽向そんな服着て面接にでも行く気か、普通の服で良い普通の服で」
「だって私ここで駄目って言われる覚悟できてない、私にとっては今の会社の面接に等しいレベルなんですよこれ」
「分かったからとりあえずそのリクルートスーツ脱げ、洋服決まらないなら見繕ってやるから」
「奏斗さんどうしよう、結婚なんて駄目って言われたら。結婚できなくなったらどうしよう」
「言わない言わない、それとなく家族には言ってあるし母さんは喜んでたから。会社の面接で言うなら行く前にもう内定が決まったようなもんだ。大丈夫だから俺が服選んでる間に人書いて飲んでろ」
「人、人、人、人、人、人……「もういい、音読しなくて良いからさっさと飲め」
結局全身奏斗が決めた服を着て家を出ることになった。「陽向歩き方忘れたのか、その歩き方はさすがに忍者しかしないぞ」
「待って奏斗さん右手と右足が同時に出る、どうしようこれ」
「陽向はうちの実家に情報盗みにでも来るつもりか、たいしたもんもないっていうのに。一旦深呼吸しろ大丈夫だから」
「ふーー、……待って駄目やっぱり同じ方が一緒に出る」
「じゃあもういっそ腕ふるな、足だけ動かせ。そうしてれば家には着くし今よりはみっともなくない」
「みっともないんですか今の私、どうしよう、あとどれくらいで着くんですか」
「十分ってとこだな、大丈夫だ俺が絆されたんだから俺の家族が絆されない訳がない。陽向の素直さは俺が保証する、陽向は天然人たらしだから安心してろ」
「それ褒めてるんですか、待って転ぶ足がもつれる絡まる助けて」
「褒めてる、盛大に褒めてる。転びそうなら捕まってろ、手繋ぐのが恥ずかしいなら腕掴んでろ、大丈夫だから」
大丈夫と散々言われて着いた奏斗の実家では、奏斗の言う通り陽向の素直さに家族全員が微笑ましい顔で結婚を承諾した。
陽向に酒を勧めてくる父親は「陽向はそこで飲めない。五パーセントのチューハイ二本ちょいが限界だから、悪いけど今日は断っておく。父さんの飲んでるような酒飲んだら一発で確実にやられる。今日だってリクルートスーツで来る勢いで緊張してたんだ。そんな中で酒入れたら一瞬で酔う」と奏斗が止めてくれた。
「どうやってこんな無愛想な奏斗がこんなかわいらしい子捕まえてきたのよ」と聞いてくる母親には、自分から
「私が先に好きになったんです。最初は怖かったけど仕事でもそれ以外でもたくさん助けてもらって、いつの間にか憧れに変わってて。それで人としても好きになってて」と返した。
和人と名乗った兄は確かに奏斗そっくりで背の高い奏斗よりさらに背が高かったが、前奏斗に言われていたような不機嫌さはなくその言葉を聞いて嬉しそうにしていた。
母親は「まあこんな可愛くて小さい子に告白させたのあなた、男ならもっとちゃんとしなさいよ」と言っていたが、それも奏斗が
「婚約は俺から言い出したし結婚は決めたが改めてプロポーズもする、さすがにそこまで廃ってない」と返していた。
え、え、私これからまたプロポーズされるの、しかも奏斗さんから、いつか分からないけどこれからはずっと綺麗な格好してなきゃプロポーズの日に毛玉だらけの洋服とかだったら最高の思い出にならないかもしれない、
とぐるぐるしている中奏斗が耳元で「ちゃんとそれまでには分かるように誘うから今は安心してろ、大丈夫だもう認められてる」と言ってくれたのでその後は少し安心して帰る頃には家族とも打ち解けていた。
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