幸せの絶頂

第32話

婚約してから一年後に二人は結婚することを決めて、両親に挨拶に行くことにした。


まずは遠くの陽向の家に挨拶に行くことが決まった。


顔と体格こそ威圧感があるものの、さすがやり手の営業マンだけあって、その話し方は上手く陽向の両親はすぐに承諾してくれた。


「うちのお母さんすっごく喜んでたでしょ、きっと今日のうちに町内のニュースになりますよ。田舎のネットワークってすごいから」


「喜んでもらえるなら俺としては安心だ。田舎の一人娘なんて最初は断られる覚悟もしてきたのに、ありがたいことにご両親に頭下げてもらってその日のうちにOKして頂いて」


「それは私もちょっと安心でした。……うちのお父さんって、ちょっと奏斗さんに似てるかも。あの顔ちょっと不機嫌に見えるけどあれが嬉しい顔なんですよ、お酒勧めてきたのも心開いたって感じだったし」


「連れてきた婚約者が父親に似てるって言われるならお父さんも喜ぶんじゃないのか、それは俺じゃなくて親御さんに伝えてやれ」


「確かに。それもそうですね、連絡しとこう。でも次来るときはもう完全に心フルオープンで一日寝て過ごしてても微笑まれるレベルでお母さん奏斗さんのこと気に入ってた気がする。かっこいい人連れてきたわねって言われたし」


「それなら何よりだな、ありがたいもんだ。……それで陽向、俺の家に来る心の準備はできてるか」


「それはまだちょっとできてなくって……だってお兄さんいらっしゃるんですよね。なんか関門が二つあるような気がして緊張する。奏斗さんの威圧感が遺伝だったらもうすごい怖い、その場で倒れるくらい怖い」


「そんなに怖くはないぞ、うちだって普通の家だ。……ああ、俺の兄はまだ婚期逃してるから多少は不機嫌になるかもしれないな。


でも表情の変化が俺によく似てるから陽向なら多分大丈夫だ。俺の扱い方と同じようなもんで良い。あんまり甘やかすと調子に乗るからそれは止めろよ。


それに、これまで女っ気のなかった俺に婚約者がいるって言ったら両親ともありがたがるレベルだから大丈夫だ。少なくとも俺の兄貴に惚れなければ良い。それをされた日には俺が倒れるから頼むから止めてくれ」


「惚れませんよ、私は奏斗さんが一番だから。見くびってもらっちゃ困ります、後輩としての期間も含めてどれだけ追いかけてきたと思ってるんですか」


「ならいい」とむすっとした顔を見てまたこれは嬉しがってるな、と思って東京までの電車の中では酒で寝落ちた奏斗を見ながら幸せな気持ちで東京に戻った。

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