第28話

次の月曜日、一緒に通勤してきた二人の指輪にめざとく気付いたのは情報屋の”山本さん”だった。さすがに何度も声をかけられていれば名前も覚えている。


「おはよ……え、ちょっと何岩崎、左手薬指に指輪なんかして。今更ギャグか? ……え、本郷さんも同じ指輪……だよねこれ。まさか本郷さんが飲み会で言い逃げしてたかっこよくて可愛い彼氏ってお前なのか。え、お前を可愛いと思えるほどに本郷さんが洗脳されてるのか、俺たちの見ないような顔してデレデレして甘やかしてるのかどっちだよ」


その一言で、飲み会にいた全員が朝から自分が手を付け始めていた仕事を放り出して周りに寄ってきた。


「あー、かわいいだなんだはこいつの酔っ払いの失言だ、こいつの前で可愛かったことはさすがにない。それにこいつのことを洗脳した覚えも全くない。ただこいつとは婚約してる」


その一言に集まってきていた全員が騒ぎ出した。


「ちょっとお前女に好かれるようなことしてたかよ、しかもあんだけ絞ってた本郷さんなんてどうやって捕まえたんだ」


「そうだぞ、大体なんであんなに厳しくされてたのに。本郷さん、本当にこいつで良いのか」


陽向は素直に仕事を飲み込むよくやっている後輩としてみられていたようで、実は営業部の中に彼女を狙っているやつも少なくなかった。

そいつらは全員自分よりはるかに業績の良い、ただ厳しくて女が酔ってこないはずの岩崎に取られて悔しいような表情をしていた。


「私が勝手に好きになって告白したんです!」


その声は思っていたよりも大きくて営業部全体に響き渡った。あ、やば、と思いながらもそのまま言葉を重ねた。



「かっこいいから尊敬して、いつの間にか好きになってたんで……「以上だ、質問は一切受け付けんしそういうことだから俺の婚約者に手だそうとした日には容赦しないぞ、飲ませようとするのもアウトだ。


今後俺のいない飲み会でこいつを酔わせたやつがいたら手加減しない。


……それに常務までわざわざ来るような案件じゃないです。お引き取りください。


新卒は全員仕事に戻れ、それ以外の社員に対しても何を訊かれても俺も本郷もこれ以上はしゃべらん」


そう言って陽向の口を押さえつけたまま奏斗は話を強制終了させて仕事に戻った。後ろで林さんがクツクツ笑っているのだけが見えた。




しばらくしてから「林が何か漏らしたら俺もついうっかり口が滑るかもな」


「何言ってるんだ岩崎、そんな楽しいことするわけないだろ」と二人が笑いながら会議に歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る