第27話

指輪がはまっていると思うとなんだかむず痒くて嬉しくて、陽向はその日何度も指輪を見た。



「陽向さっきから指輪ばっかり見て、目の前にいる俺のことは見ないのか」と少し機嫌の悪そうな奏斗に、「だって、これで本当に奏斗さんのものになったって思ったら嬉しくて。なんかこれまで何もなかった指にこんなに綺麗な指輪がはまってるのもなんか少し不思議って言うか。お店でも綺麗だと思ってたけど、近くで見ると本当に綺麗な指輪だし」と言った。すると、また奏斗は右手で顔を覆って大きくため息をついた。


「えっ私何か言いま「なんでもない、こっちの都合だ。いいから見るな」そう言って奏斗は空いた左手で陽向の顔を覆った。


その指にも指輪がはまっているのが嬉しくてまた少し笑ってしまう。


「なんだ陽向、そんなに俺がおかしいか。悪かったな、年甲斐もなく指輪に拗ねたりするような婚約者で」


「んーん、拗ねてくれてるのも奏斗さんの手にも指輪がはまってるのも嬉しくて」そう言うと一旦離されかけていた手がまた陽向の顔を覆った。


「ちょっと顔くらい見せてくださいよ」「やだね、なんで顔覆ってるのか分かったら見せてやるよ」「照れてるからでしょ」


そういった瞬間に顔を覆った手の力が強くなった。まさかと思って冗談で言ってみたけどこれは当たりか……?


そう思うと目の前にいる背の高い人がまた可愛く思えてきて、陽向はその手を無理矢理押しのけて奏斗に抱きついた。

実際は助走付きで飛びついたに近い形だったが、それでも奏斗は難なく陽向を受け止めた。


「大好きですよ、奏斗さん、本当に大好きです」


「ああ、俺もだ」


「その先は言ってくれないんですか。私も拗ねちゃいますよ」


「……こっち見ないなら言ってやる」



「何にも見てません、目の前は奏斗さんの着てる洋服でいっぱいです。顔なんて全然見えないです、そのまま抱きつかせてくれてれば」


「じゃあいいな、一回しか言わないぞ。よく聞いてろ。……愛してる」


自分の言葉の上を行かれて、陽向は奏斗の服に顔を埋めてしばらくゆでだこになった。


「ほら、さっき言ってたがそっちこそ顔は見せてくれないのか」と陽向をぶんぶん振り回して振り落とそうとする奏斗に、「絶対嫌です、見せたくないですこんな顔」と言ってしがみついた。「どんな顔だ、見せてみろ婚約者に」「嫌だもん見せないもん絶対やです」「そろそろ振り落とされろ」「全力で捕まってるからまだしばらく落ちません、疲れる前に止めた方が身のためです」


二人はただの恋人から婚約者に変わった。

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