第25話

無事家に着いた次の土曜日、陽向は奏斗に雪隠詰めにされていた。


「おい陽向昨日の飲み会でなんて言った、もう一回言ってみろ」


「ちゃんとお酒断って奏斗さんに行くお酒を止めました、褒めてください」


「そこじゃない、分かってて言ってるだろう陽向。その後だその後。彼氏がいるとか口滑らせやがって」


「なんで覚えてるんですかあんだけ酔ってたのに。昨日帰ってきたときなんか倒れてそのまま寝るくらいだったのに」


「俺は酒で記憶飛ばすタイプじゃないんだよ、……ちっ」


その舌打ちは自分に打ったものだとすぐに分かった。


”俺も酔ってた、お前の言ったことは一言も覚えてない、いいか一言もだ”ーーその発言を崩したことに奏斗は口に出してから気付いたらしい。


「あっれえ、岩崎先輩私の言ったことは一言も覚えてないんじゃなかったんですかー? 私お酒で記憶飛ばさないって聞いた気がするんですけど、今」


その陽向からの煽りに奏斗の立て直しは早かった。


「ああそうだ覚えてるよ。半年以上も前にお前が酔っ払って上司の家に転がり込んだ挙げ句脱いで人のベッドで寝やがって、その上起きて俺に好きだ仕事でも超すだ何だと抜かしたことは全部覚えてるよ」


「キャーーーーーー何でそんなこと言うんですかもう思い出したくもなかったのに!!! ていうか私が脱いだの知ってたんですか?! 最悪!」


「脱いでたから朝ご丁寧にノックまでしてやったんだろうが。俺も忘れかけてたのにどこかの誰かさんがたった今思い出させてくれたからだな、……でなんだ? 陽向の彼氏とやらはかっこよくてかわいいんだっけか?」


「ああもう奏斗さん最悪。もう会社で彼氏の話絶対訊かれるに決まってるし、鬼って言い続けてた人がうちに帰ると可愛くて仕方ないんですなんて言えない」


「止めろそれは俺も痛い、もういっそのこと会社中に早晩ばらした方が早いから可愛いだなんだは酒の勢いって事で撤回しろ。それならまだ情状酌量の余地ありで揃いの指輪でも探しに連れてってやる。もしまだ言う気があるなら徹底抗戦するぞ。陽向が毎週必ず焦がしたもん作ることも、寝るとき俺のところで丸くなってることも全部話してやるからな」


「多分それ奏斗さんも痛いのに……まあいいや、指輪はどうせなら欲しいです。憧れるしお酒の席も断りやすくなるし」


「全く現金な奴め。よしじゃあもう振り切ってばらすぞ、それでいいんだな?」


「私は大丈夫です、奏斗さんが実は優しいの知ってるのが私だけならいいです」


そう言うと奏斗は大きくため息を漏らした。


「えっ私何か言いました?!」


「いいんだよこっちの事情だ、準備しろ待ってるから」


そう言って陽向を急がせてから一人で考え直した。

ーーあんまりいきなり可愛いこと言ってくるのもこの娘の考えどころだよなあ全く。

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