第23話

その日の夜奏斗からは酒の飲み方について膝詰めで散々教わった。



「まず甘くて飲みやすいからってカクテルばっかり飲むな。一番引っかかりやすいところにどうして陽向は毎度毎度引っかかる。典型的すぎるだろう。


まずは飲むのはできるだけ家の中だけにしておいて、量を変えて試して自分の飲める量を見極めた方がいい。


あとせめて度数の高い酒に興味本位でロックで挑戦しようとするのを止めて、水でも何でもいいから割って飲め。あとはこれ、


……このサイトに載ってる酒だけは絶対飲むな、全部覚えろ」




「全部ー?! 無理無理、奏斗さん私の記憶力ない方に賭けてたのにこれは覚えてろって言うんですか。無理ですこんなカタカナの羅列覚えるなんて。大体なんでこれ覚えるんですか」




「これは”レディーキラー”っつってな、要するに女のこと手っ取り早く酔わすための酒に分類される酒だ。


覚えられないならその手帳に端から書いてなんとか覚えろ、それで飲みに行ったときに自分にそれ頼まれたら条件反射で断れるようになれ。


あと青い酒は綺麗だろうが、基本的に男と差しで飲むときには頼むな。特に常務と二人だったら絶対に飲むな。睡眠薬が混ざってても青いと気付かん。


強い睡眠薬は溶けると分かるように青くなってるもんもあるが、元が青いと気付きにくい。さすがにあのおっさんもそこまではしないと願いたいが心配の方が勝つ。


俺なしで飲みに行く機会もそんにないだろうが、手洗いでもなんでも一度目を離した酒はもう飲まないで新しいのを頼め。……ここまでいいか?」




「よくないよくない、何もよくない。もう一回お願い奏斗さん」




「はいはい、だからまずこのサイトな、この酒頼まれたら断れ。リンク送ってやるからサイト開いてメモして名前の響きだけでも頭に叩き込め。



それから人に頼まれた酒と目を一度でも離した酒はもう飲むな。気にしなくていいから新しいのを頼め。それで止めてくるような男だったらより駄目だ、すぐに連絡しろ。迎えに行く」




「青いお酒は頼まない、青いお酒は頼まない、目を離したら新しいの、目を離したら新しいの……」




「そうだ。あとは新しい酒に挑戦したくなったら俺と行けばいい、いくらでも連れて帰ってきてやるから。ゆっくりでいい、でも陽向の身を守るためだから覚えておけ」




言い方こそ厳しかったが奏斗は誰よりも陽向のことを心配していたし、プライベートの瞬間に”お前”と呼ぶことは一度もなかった。



その目は仕事の時のそれよりもずっと優しかったし、付き合ってからその素直で純粋なところに更に奏斗は陽向に惹かれていた。だからこそ酒の飲み方は真っ先に教えた。


その素直さに、家でやらかしたときのしょんぼりした顔に、それでも仕事の時は凜々しくなっていくらでも頼れる部下でいてくれることに、陽向が思っているよりも奏斗はずっと陽向のことを愛していた。

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