第21話
二人の生活はこれ以上なく順調に進んでいった。
仕事の面では支え合い、プライベートでは甘やかしあった。
「本郷先輩、この計画書岩崎先輩にゼロからやり直しって言われたんですけどどうすればいいでしょうか……」
泣きそうになった後輩をフォローするのはいつも陽向の仕事だった。
「大丈夫、岩崎さん期待してる人にしか厳しくしないよ。江口さん期待されてるからちょっとどころか鬼のように怖くされてると思うんだけど、あの鬼もそのうちちょっとだけ優しくなるから今だけ頑張ろう。私にもあれくらい厳しかったけどちょっとしたら優しくなったから。
……で、この計画書なんだけど、ちょっと見せてもらうね。……なるほど、大丈夫。全部駄目って意味でゼロからって言ったんじゃないよ、これ。ゼロからって言うのは、人集めからやってみろって事だと思う。一人きりでやらないで他の部署の人にもお願いしてみるところから始めようか。一緒にやろう」
「はい、ありがとうございます、すみません何度も助けて頂いて」
「いいのいいの、私も後輩できたら絶対優しくするぞって息巻いてたから、頼ってくれるの嬉しいよ。
それに何も言わずに失敗しちゃうよりずっと良いからすぐ聞きにおいで。失敗が全部先輩のせいになるからラッキーだよ」
そう言って陽向は後輩には誰より優しく接するように心がけていた。
「ちょっとそこの鬼上司、私のところに後輩が泣きついてくるんですけどどうにかもう少しその角納めてもらえませんかこの鬼め」
「嫌だね、それにそれはお前が言うことじゃないだろう、本人に言われたら考えてやるよ」
「ばっかじゃないんですか、本人に言えるわけないじゃないですかあんたの顔と存在が怖いからどうにかしてくれなんて。可愛い可愛い新卒の後輩に言わせまいとして私が言いに来たんですけど。その辞めさせないための観察眼とやらはどこに行ったんですかね」
「お前一応でも上司になんてこと言ってんだ。仕事できるようになったからって何でも言っていいわけじゃないぞ、このかわいくない部下め」
「仕事できるってお褒めの言葉ちょうだいいたしましたー。かわいい部下が泣きそうになってるから来たんだっての、早くなんとかしてくださいこの鬼」
「お前鬼しか語彙ないのか、もうちょっと日本語を勉強してから俺のところに来るんだな」
「それはそれは私の貧弱な語彙でご迷惑をおかけしました、勉強させて頂きますので早く後輩のところ行ってフォローの一つでもしてきてください」
「はいはい、対価に仕事一件な」
「はいはい承りました」
その頃もう二人は息が合いすぎて夫婦と呼ばれていた。だがその全員がまさか本当に二人が付き合っているなどと思いもしなかった。
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