追いついた。

第19話

仕事に私情は挟まない。そう言った以上、陽向は彼に性急に答えを訊くことはしなかった。時間をくれと言われたんだから、私が聞きたいって焦っても仕方ない。考えてくれてることに口を出したくもない。それでこじれてしまうのだって嫌だ。


一週間でも一ヶ月でも、なんなら断られた後でも追いかけてやる。それでいつか振り向かせてみせる。それなら期間なんてものは気にはならない、いつだってかまわない。定年するまで追いかけてやったっていい。それくらい今はこの人のことが好きなんだから。


仕事はいつも通り二人とも息が合っていて順調に進んでいった。


想いを告げてから一ヶ月経たない頃、午後にメールであの日と同じカフェに来るように言われた。

その言葉が聞きたいような聞きたくないような気持ちでいた。それでもあの日の、告白した日の彼からの言葉に少し期待が少し勝っていた。


その日陽向は仕事をできるだけ早く終わらせて急いでカフェに入った。


岩崎は外から見える席でもう既に二人分の飲み物を買って待っていた。


「どうせお前カフェラテだろ、これやる。これから外歩くけど寒くないか」


「大丈夫です、どっちも。飲み物ありがとうございます」


そう言って二人で外に出た。ちょうど雪が降り始めるような時期だった。風が冷たくて震えた陽向はコートのチャックを上までしめた。その間二人分のドリンクは岩崎が持っていてくれた。そして飲み物を手渡されるときに手が触れて、言われた。


「……絆されたよ、陽向に。俺これから柄でもないこと言うけど笑うなよ。……好きです、俺と付き合ってくれませんか」


突然に言われたその言葉に一瞬理解が追いつかなかった。絆された、好きだから付き合ってくれないか。それに初めて名前で呼ばれた。心臓の音が耳のすぐ傍で聞こえた。


「私で、いいんですか」


「最初に言ってきたのはそっちだろう。それでいいって言って、今はこっちが俺でいいか訊いてるんだ」


優しい声に、これからこの人に愛されることができるんだという喜びに、涙がこぼれそうになって上を向いた。背の高いその人とちょうど目が合った。その顔は仕事の時の顔とは違う優しい顔だった。陽向はそれを見て顔を赤くした。


「期待するぞそんな顔されたら」


「……して、ください。してほしいです。好きです。岩崎主任」


「俺はプライベートで彼女に役職で呼ばれる趣味はないな。奏斗だ」


「奏斗さん、付き合ってください、よろしくお願いします」


そういった瞬間に涙を拭われた。陽向が奏斗に追いついた。その日陽向は奏斗の家に半年以上ぶりに入った。

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