追いかける、
第13話
「ちょっと待て、本郷お前今なんて言った?」
「ちょっと待ってください、先輩今私なんて言いました?」
お互いに聞きあってお互いに訳が分からなくなった。あの鬼上司が好き……? 私が……? いやそんなわけなくって嫌いなはずで、ここの社員の中で一番嫌いなはずで、じゃあなんで口から出てきた……? ていうか私今本当に好きって言った? 言ったな、何でか言ったな。
しばらく二人は黙ったまま硬直した。そして沈黙を破ったのは岩崎の方だった。
「……あー、分かった。今のは酔っ払いの戯れ言だ、聞かなかったことにしてやる。とにかく今日は帰って休め。酔っ払いの言葉を本気にするほど俺も落ちてないし、お前も他にもっとマシな男がいるだろう。馬鹿なことを言うもんじゃない」
そう言われると自分の中の何かが否定された気がして少し傷ついた。そして鬼上司に対する負けてたまるか、という気持ちがこんなところでまた顔を出した。
大体私の言葉馬鹿って言いやがったこいつ。
「いや、もう私酔ってないです。私やっぱり岩崎さんのこと好きです。絶対に仕事で追い越しますし振り向かせてみせますから」
……ん? 今私なんて言った? あんなに嫌いな鬼上司に二回も告白した? いやまさかそんなことあるはずが、……でもしたな。なんでした?
自分で言ったはずのことに自分で混乱していると岩崎がため息をついてから話し出した。
「……ったくいいからもう帰れ、そういうことは本気だとしてもせめて素面の時に言うとしたもんだろう。大体お前は俺のことが嫌いだろ。好かれるようなことをした覚えは俺には全くないぞ。
昨日の今日で混乱してるだけだ、多分だが常務よりかはマシだと思っただけだ。一旦家に帰って寝てからもう一回思い出してみろ。多分これ以上言ったらお前会社に顔出せなくなるぞ。
仕事で追い越すってんならまだ聞いてやる、できるもんなら好きに追い越してみろ。ただそれ以外は聞かなかったことにしてやるからもうこれ以上言うな。一旦帰れ。
大体今自分が何言ったかよく分かってないだろうお前。混乱したまま何でもかんでも言うんじゃない」
それはその通りだったので、その日はそのまま家に帰ってぐちゃぐちゃになったメイクに顔をしかめてシャワーを浴びてから眠りについた。
私こんな顔して上司の前でしゃべった挙げ句電車に乗って帰ってきたって言うのか。最悪な日だやっぱり。
とりあえず考えられるのはそれだけで、自分が上司に言ってしまったことについて考えているような頭の容量はもうなかった。
そして次の日の朝、自分が言ったことを思い出して陽向は盛大に叫ぶことになる。
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