第12話
しばらくして涙が落ち着いてきたところで岩崎が声をかけてきた。
「とりあえず昨日はちゃんと様子見てなかった俺も悪いし何もなかったんだからそれでいい、とりあえず泣き止め、俺も泣かせたと思うと寝覚めが悪い。
酒が抜けたら今日は気をつけて家に帰れ」
その声はさっきよりもずっと優しくて穏やかだった。
私、この人に助けてもらったんだ。私この人がいなかったらもっと大変なことになってて、それでこの人は私を心配してくれたから怒ったんだ。
部下として、大切に、されてたんだ。だから怒ったんだ、だから見捨てられなかったんだ。だから常務のところに置いて行かれなかったんだ。
そう思うと今度は別の意味で涙が出てきて止まらなくなった。
「私……ごめんなさ、次からは、絶対お酒ももっと、気をつけて、「次からがあるならいい、俺もさっきは言い過ぎた。お前のことは使える部下として認めてる。悪かった。
だから辞めなくていい。とりあえず酒は甘いからってカクテルばっかり飲むな、一番度数も高いし寝落ちしやすい。その辺は次からはもう少し見ててやる。
ただそれも俺がいるときだけだ。俺がいなかったら助けてやれないかもしれない、その時に自分で自分の事くらい守れるようになれ」
その優しい言葉に自分の涙はどんどん止まらなくなっていった。次やらかしてもこの人は私を助けてくれようとしているんだ。次も守ってくれようとするくらい、それくらい大事にされているんだ。
そして会社の外だからか、いくら泣いても目の前の上司は、自分を助けてくれた上司は何も言わずにただ自分を見つめていた。そしてその視線に気付くと「悪い、見られたくないなら見ない」と言ってくれた。
「じゃあ見ないでください」と言うと目の前の男はすぐに後ろを向いた。しゃくり上げる声も聞こえていないふりをしてくれた。
あんなに嫌いなはずだったのに、助けられた。助けてもらって怒ってもらった。
あんなに嫌いなはずだったのに、気付いたら憧れていたし部下として認められていた。
私、もしかしたら。もしかしたら本当に、
昨日着ていたそのままのワイシャツの背中を引っ張って頭を預けた。
その仕草に多少動揺したようだったが岩崎は何も言わなかったし、そのまま背中を貸してくれた。
しばらく泣いて落ち着いた。お酒も抜けた。
「帰れるか?」その優しい声にはいと応えて家を出ようとして、気付いたらその言葉は口をついて出てきていた。
「岩崎主任、私主任のこと好きです」
そしてその次の言葉は二人同時に出ていた。
「……は?」
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