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ナンバーと数字をこの世に誕生させたきっかけ。それは遠い昔、《絶滅に瀕したジュノーとステラの分子を助ける》ために、【フレイからフレイを誕生させた】事を最大の原因とし、最も重い大罪に【過去のフレイ】が犯した事を要因とする。絶滅は必要不可欠な要素であり、避ける事の出来ない宿命。しかし進化の過程で過去と未来を繋ぐ重要な因子が誕生するのもまた運命。
何より、〈過去に絶滅したジュノーの分子〉は〈未来で誕生するステラの分子〉と深く繋がっており、《過去のフレイによる二つの分子の召喚》は世に生を成すための必須条件でもあった。
常軌を逸した人間との戦いは分子の時代から始まっており、一人孤独と強い葛藤に苛まれた過去のフレイが、この事実に辿り着かない筈もなく、生きる術を持てないジュノーとステラを救出する手段は、平行世界から現代へ二人の分子を召喚させる事のみ。生命の金字塔を打ち立てた過去のフレイが涙で紡ぐ
過去のフレイが犯した罪はあまりに重責だが、過酷な運命を背負っても、最後の望みを繋ぐために自らを混沌の渦に落として、様々な苦難と困難を乗り越え、過去のジュノーと未来のステラの存在を現代へ導く事に成功させたその手腕は、称賛されるべき尊きものである。
しかしそれは更なる悲劇を生むきっかけに他ならない。招かれざる客は否が応でも付いて来ると決まっている。《大量の人間に埋められ、虫の息も同然のジュノーを大量の人間ごと過去から現代へ》、《未来からはステラの抜け殻を使い、ステラとして贅沢三昧を尽くした元凶の祖と共に現代へ》と呼び覚まし、始まりの【
これは一切の自由が利かない、ジュノーとステラの分子を一時的に守る最善の方法となる。
再び廻り出した
これを起源に数字は不確かな空間を正すために算出された正確な刻印であり、その数字を補佐するためにナンバーが与えられている。つまりは身分の証として存在している。
「まずナンバーと数字の起源とその意味、理解のほど宜しくて?」
「あぁ、ある程度予想はしていたが、思ったよりなんと言うか、……よくあると」
「まさか伝説や神話が人間の着想とでも? この世には制御出来ない麻薬で溢れているのよ。極端な話、塩や砂糖だって例外じゃないわ。進化に限界が無い限り、無機物や有機物に記録や記憶が残っていても何一つおかしくないのだから。貴方ならこの意味、理解出来るでしょう」
ジュノーの独特な感情の無い淡々とした物言いは続く……。
元々人間に潜在された汚い感情だからこそ、不快を知って誰かを貶めるのも、怠慢を覚えて保身に図るのも、都合の良い思い込みで
そんな自身の邪心との結託で地に落ちる輩は、近年稀にみるほど増加傾向にある。
これは情報共有が容易な現代の傾向が影響している。本来自身の悪と上手く付き合い、理想と現実に挟まらながら藻掻く事で成長を促し、本当の生きる意味が生まれるというもの。
根本にある自分の問題と真摯に向き合わず、邪心に溺れ、社会を恨んだ人間への制裁と警告的意味合いから『罪咎』と名付けた行動こそ、人間の思考や動向と進化の経過を図るための重要な役割を担っており、現状、ジュノーたちが人間に与えられる最大限の恩恵と猶予となる。
そんな中でも特別注力しているのが、曲者のアイリーンだ。アイリーンが未来人なのは周知の事実だが、恐ろしいのはアイリーンの徘徊に証拠は一切残さない事から、完璧主義で極度の潔癖症を持ち、完全犯罪を完璧にこなす知能犯であることだろう。
つまり罪咎の真の目的には、アイリーンの調査・分析を正確に明らかにする部分も大きい。
海と大地が交わる瞬間があるように、神と人間も助け合い、共に成長を高め合うはずの仲だった。元々生物が廻る輪廻に落差は無く、生命が芽吹くその先は限りない一本道であり、現世に誕生するため、常に複雑な引力斥力を織り成す事で生物は生命を維持できていると言うのに、何時まで経っても現実を直視しない人間に、同情の余地など存在しないのだから……。
「こんなものかしら。地球の寿命に関しては……、まぁ、自ずと分かるでしょう」
ジュノーの人間に対する罪悪感は微塵も無く、寧ろ嫌悪感を抱くのだから説明に容赦がない。
そんな張り詰めた空気は、ある程度満足を得た土産男を陽気にした事で一時緩和する。
「そうか、恩に着る。またすぐ会うだろう。俺はマサヤだ、よろしくな!」
軽快に差し出された【マサヤ】の右手は、ただ虚しく風が通り過ぎる。頑なな拒否反応に対して、怖いくらいの満面の笑みのジュノーが軽快に口を開くと、心にもない言葉を並べた。
「そう、なら次回から是非、貴方との情報共有も行いたいものね」
「……なるほど、な。分かった、良いだろう」
マサヤの右手は不快感を潰すように空気を強く握るが、表情は終始陽気さを損なわず、この場から去る。そんな異様な雰囲気の中、終始笑顔のジュノーに怪訝そうなフレイが近づいた。
「ジュノー、肝心な事言ってないよね?」
フレイの一言により、一瞬で笑顔を失くすジュノー。
「あら、嘘は言っていないわ。望まれたものを望み通りに手広く披露したまでよ」
「確かに嘘じゃないけど、それでもっ!」
「世の中には様々な憶測が飛び交うものよ。仲間であっても相容れない存在は実在するわ。それは貴方が一番身に染みているはずなのだけど……。まさか、もう忘れたの?」
ジュノーの言葉はマサヤが見せた過去を鮮明に、恐ろしさを倍増させてフラッシュバックを起こさせる。そんな地獄の導きを一瞬で遮断させて、新たな道を示したのはジュノーだった。
「怖くないわ……」
恐ろしい回想からジュノーの言葉で視点を下げると、凛とした表情のジュノーが目に映る。
前回の
図らずとも人力とは遊離した力を手中に収めたジュノーとフレイ。未だ衰え知らずの遠い彼方へ駆け上がる力は、偉大かつあまりに恐ろしいもの。そんな二人の優しさを突いて、奴隷の契約書に血判を押させたのは人間。極楽浄土の更なる高みを夢見る浅はかな思考は、永久に削除不可能な欲望。この事実に気付けていない人間は幸か不幸か、知る事こそが地獄か……。
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