幼馴染
北風が強くなってきて底冷えするような寒さを感じる日が続くようになってきたある日、再び連絡が届いた。
この前家まで送り届けたあと少し会話をしていたから少ししか間は空いてないのだが、僕には随分久しぶりの連絡に思えた。
『年末飲み行かない?』
『いいよ。いつ?』
サークルやバイトで忙しそうな彼女が僕と飲む時間なんて果たしてあるのか疑問だが、誘われたものは断らない。僕の方は予定があるわけでもないし。
『12月29から31の間が空いてるんだけどどこがいい?』
『僕はどこでも大丈夫』
『じゃあ3日間飲もう』
『ベロベロになっちゃうよ、30で仮決めで』
『おっけー、何食べたい?』
家が近いこともあり家で飲む案もあったがどうせなら外で飲み食いしようということで話がまとまってついでに昼間も遊ぶことになった。
大晦日前日にやってる店があるのか僕は最初不安だったが、こういうことが好きな彼女があれこれ探してはちまちま連絡をくれるので安心したし楽しみになってきた。
あれもこれも楽しそうに教えてくるものだから逆にどれがいいか特に決まらない方が大変だった。
「なんかいい事あったか?」
学校で彼女に返信を書くためにスマホを触っていたら、友人にそう聞かれた。
いい事かと聞かれて首を傾げてしまう。楽しみだと思っているこの予定に関する全てはいい事の括りに入るのだろうか。
「うーん……多分?」
「そうか?そういう割には珍しく随分と嬉しそうだったぞ」
彼女でもできたのかと思ったよ、とドヤされて思わずスマホに目を戻す。
幼馴染である彼女に対してそんなふうに思ったことは無かった。
だいたい彼女は僕より随分と朗らかで恋人になるには僕が不釣り合いすぎる。彼氏いそうだな、とまで考えてそういう話はあんまりしないことに気がついた。
僕は彼女にとってどういう存在なのだろう?
彼女は僕にとって幼馴染で、僕の1歩前を歩いて行くような、たまに危なっかしくて可愛い女の子。好きか嫌いかで言って嫌いな訳もなく、かといって好きと言い切ることはなんとなく出来ない。
「あの子は僕じゃない誰かと幸せになると思う」
「何言ってんだよ。そこは俺が幸せにする!!…だろ?」
「いやぁ……」
あはは、、と苦笑いを浮かべて誤魔化す。
誰かを幸せにするなんて、僕にはちょっと荷が重い。目の前の友人は今付き合ってる彼女がいかに可愛くていい子なのか力説し始めた。彼女がいる事の良さとか、楽しさとかも教えてくれた。僕は真剣に聞いていたし、相槌も打っていたけれど、その中身にあまり共感することは出来なかった。
あの友人のせいで彼女のことが頭から離れない。今まであまり気にしてなかった言葉や表情、連絡の一つ一つに意識してしまう。
確かに、僕のことなんてすっかり忘れて連絡が全くなくてもおかしくないのに、定期的にくる連絡や出かける誘いなど、改めてよくわからない。
僕のことが好きとか?
……いやいやそれは無いな、自意識過剰すぎる。でも、既読も返信もいつも早いんだよな。
幼い頃と違って負担の様子がわからないから、僕にだけ特別なのかみんなにそうなのか判別がつかない。
そうやって気にしたり気にしなかったりしているうちに、あっという間に年末がやってきた。
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