*

3人が去って行った後も、隼人はしっかりと成美の手首を掴んだままでいた。



「織田くん……手……」


「ごめん! 掴んだままだった」



隼人の照れたような笑顔を見て、成美の止まっていた涙がまたこぼれ落ちる。



「こんなことして、織田くんまで何か言われたらどうするの?」


「やっぱり、いろいろ我慢してたんだ」


「……噂のこと……知ってたんだ……」


「まぁ。水野さんの無実?ちゃんと証明できるもの集めてからじゃないと、あーゆー奴らには口で反撃しただけじゃダメだと思って、お客さんに会いに行った。もうすぐ子供生まれる方のご主人、出張でずっといないからアポとれなくて、時間かかった。ごめん」



隼人は心配そうな顔で成美を見た。



「どれだけ一人で泣いてた?」



成美は返事をすることができなかった。



「ハンカチ……あるから」



隼人がポケットから出したハンカチは、丸まって入っていたせいかシワクチャになっている。

隼人もそれに気が付いて苦笑いする。



「洗ってはあるんだけど……」


「ありがとう……借りていい?」


「無理に使わなくても――」


「気にしない。貸して」


「うん。好きなだけ使って」



隼人が今度は優しく成美に笑いかける。



「さっきので、もし水野さんがやりにくくなったりしたら、また助けるから。何度でも助けるから。もっと頼って。友達……だから」



成美はずきんと胸に小さな痛みを感じた。



「……そうだね……」



(……友達だから、自分の立場だって悪くなるかもしれないのに助けてくれたんだ……)



その時、成美は新人研修の時、千智と話したことを思い出した。



なぜ、友達を好きになったらダメなのか。


友達なら別に好きになっても構わないのではないか。


2人でそんな話をした。



その時はわからないでいたことが、ようやく理解できた。


友達を好きになっても、「友達」としてしか見てもらえない。


優しくされてもその優しさに期待してはいけない。


友情以上の感情を持ってもらえない。


どこまでも、永遠に。



(友達……それが、織田くんにとっての私なんだ……)



「私たちは友達だよね」



成美は小さな嘘をついた。

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