*

成美は隼人の意図することがわからず、顔を見上げた。



「さっきの試乗、助手席に乗ったの自分です。水野さんは後部座席に乗ってました」


「は? 何勝手なことやってんだ? 新人のくせに」


「あの客、いろんな営業所で女性社員にセクハラしてくるって有名らしいじゃないですか。それを聞いたので自分が試乗に同乗しました。知らなかったとかなしですよ」


「知るかそんなの。そこどけよ、戻るから」


「もう少し時間ください」



隼人は明るい声で大迫営業所の3人に声をかけた。



「どうして水野さんが契約取れたのかなーって思って、自分もマネするつもりでリサーチしたんです。先輩たちも興味あるみたいだから、教えてあげますよ」


「織田くん?」


「アンケートとったんです」


「そんなの興味ねーよ」


「なんで俺らが……」


「まぁ、そんなこと言わずに聞いてください」



隼人がポケットの中に入れていたボイスレコーダーを再生すると、突然会話が流れてきた。




『購入の決め手は何だったんですか?』

『妻が、水野さんから買えって。まぁ、普段乗るのは妻だし、意見尊重したいと思って』

『ご主人様というより奥様のご意見だったんですか?』

『まぁ、そういうことになりますね。小さな子供がいることを考えた時に何がメリットで何がデメリットかわかりやすく説明してもらったって聞いてます。車のこと全然わからなくて質問しまくったみたいなんですけど、丁寧に教えてもらったって喜んでました』



そこで一旦切れて、また次の会話が始まる。



バックで犬の鳴き声が聞こえる。


『すみません。自分のせいで吠えちゃってるみたいで』

『知らない人にはいつもこの調子で。あー、でも水野さんには懐いたって嫁さんが言ってました』

『他社の車と悩まれていたのに弊社に決めていただいたんですよね?』

『うちは夫婦だけで、今吠えてる子が子供みたいなもんだから。水野さんはそんなこの子のこと考えた提案をしてくれたんです』

『ご主人が決められたんですか?』

『いえ、嫁が。水野さんから買おうって。お恥ずかしい話、嫁がいいって言えばうちはそれが決定ですから』




隼人はボイスレコーダーを止めると言った。



「これ、営業努力っていうやつですよね? 水野さんが話してたのはいずれも奥さんの方で、それなのに誰かが枕営業して契約取ってるとか噂流してるみたいで、そういうの恥ずかしいと思いませんか?」


「知るか! そんな噂!」


「そーだよ! 俺らがそんな噂流してるとでも言いたいのかよ? さっきから新人のくせに生意気な態度とりやがって」


「済んだならもういいだろ? 俺らもう仕事戻るとこだから」


「誤解が解けて良かったです! お疲れ様でーす!」



隼人が大きな声で3人に向けて挨拶をした。

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