*
営業所の裏口を出てすぐの所に立っていた成美の元へ、近吉が近づいて来て声をかけた。
「新人がサボり?」
成美が声の方を振り向くと、近吉だけでなく、大迫営業所の残りの2人もそこに立っていた。
「ごめんなさい。すぐに戻ります」
「何かあった? 聞くよ」
「あ……えっと……」
「さっき試乗行ってたよなぁ? もしかして、客に何かされた?」
「それとも何かした方?」
「いえ、何もありません。ちょっと外の空気を吸いたかっただけです。ごめんなさい。戻ります」
3人の横を通り過ぎようとした時、近吉が囁いた。
「どこまでやったの?」
成美は自分が聞き間違えたのだと思った。
試乗でどこまで行ったのか聞かれたことを聞き間違えたのだと。
「いつもの試乗コースです」
「『いつもの』ねぇ」
「なるほど。『いつもの』か」
3人が顔を見合わせて何か含んだような笑みを見せる。
「時間かっかってたよなぁ」
「かかってた」
「途中、信号のない横断歩道で幼稚園児の横断があったから。それを待っていたくらいで……」
「サービスしたんだろ?」
「サービスって何のですか?」
大迫営業所の3人は顔を見合わせてニヤニヤ笑うだけで何も言わない。
「戻ります」
そう言ったのに、どいてくれるどころか、3人は成美の方へ近づいて来た。
その内ひとりが、耳に息をふきかけてきたため、成美はビクリとした。
「耳弱い?」
「なぁ、普段やってることをちょっと俺らにもしてくれないかなぁ?」
「普段やってることって……何のことですか?」
「わかってんだろ?」
「ささっとやって仕事に戻ろうぜ」
(もう学生とは違うんだから。社会人として……ちゃんと……毅然とした……態度で……)
そう自分に言い聞かせていた成美の目から涙がこぼれた。
「冗談も通じねーのかよ」
「これだから女は」
(これ以上ここにいたくない……この人たちの顔を見たくない……)
その場を立ち去りたいのに、3人が目の前を塞いで動けない。
意を決して、3人を押しのけた時だった。
裏口のドアの前に、今度は隼人が立っていて、成美の行く手を遮った。
「少しだけ待って」
隼人が成美の手首をぎゅっと掴んだ。
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