*
天神営業所で思いがけず一緒に働くことになった隼人と成美は、勤務初日、時間を合わせて早めに出社すると、誰に言われたわけでもなく、最初の仕事ととして営業所内や近辺を掃除した。
全員が揃うと、営業とサービスマンを合わせた営業所全員の前で挨拶をした後、一日の仕事の流れなど簡単に説明を受け、最初は接客する先輩に付いた。
右も左もわからない中、言われたことをこなすだけの1週間はあっという間に過ぎて、働き始めて最初の週末、2人の歓迎会が居酒屋で行われた。
営業所の全員が例外なく車通勤をしているため、遠くから通っている者が暗黙の了解で帰りの足となるが、それ以外は一旦車を自宅へ置いてから出直す。
全員が揃うには時間がかかるため、7時30分から揃った者だけで、歓迎会はスタートすることになった。
成美は、いずれ正式に働くこととなる大迫営業の先輩3人に囲まれるような席についた。
緊張する成美に、一番先輩となる近吉はいきなり馴れ馴れしい態度を見せた。
「水野さん彼氏いるの?」
「いえ、いません」
「じゃあ、寂しいね」
「今は、仕事をがんばらないといけないから、寂しいとかそんな気持ちにもならなくて」
「そっちじゃなくて」
「え?」
「あっちの方」
「あっち?」
「何わかんいフリしてんの。わかってるんでしょ?」
「いえ……何でしょうか?」
「わかんないなら今晩教えてあげようか?」
最初からずっとそんな調子で、酒がすすむにつれ近吉の絡みは更にエスカレートしていく。
成美はそんなやりとりに困り周りを見渡したが、テーブルの一番端に囲まれるように座っているため、誰とも視線が合わない。
「あれ? グラス空いてるじゃん。飲んで」
近吉が成美のグラスにビールを並々と注ぐ。
「さぁ、飲んで」
「ありがとうございます。でも飲みすぎてご迷惑をかけてしまったらいけないから」
「そんなこと気にしなくていいから」
「でも……」
「水野さん、先輩の酒は飲まないと。早く飲んで」
仕方なく成美はグラスのビールを飲む。
それを見て、近吉以外の2人も執拗に成美に酒をすすめる。
「いいじゃん。次はこっち」
「これも飲んで」
並々とつがれた冷酒の入ったグラスを目の前に置かれ、成美は飲むのを断った。
「ごめんなさい。日本酒は苦手なんです」
「大丈夫だって。酔ったらちゃんと家まで送り届けるし」
「朝まで一緒にいてあげるよぉ」
「本当にごめんなさい」
「先輩の言うこと聞かないと」
「私がおつぎしますので、どうぞ飲んでください」
「なんだよ、つまんねぇなぁ」
成美はなんとか笑顔でお酒をつぐ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます