嘘のはじまり
4月1日、ツシマ自動車の入社式が研修の行われた時と同じホテルで行われ、新入社員のそれぞれが辞令を受け取った。
成美の配属先は、「大迫営業所」となっており、住所を地図アプリで調べると、車で20分くらいの家からさほど遠くない場所だった。
明日からの出社に備えて帰り支度を始めた成美の元へ、織田がやって来た。
「水野さん、一緒に帰ろう。同じ路線だし」
「織田くんはどこに配属が決まったの?」
「オレは天神営業所。水野さんは?」
「大迫営業所」
「大迫? 大迫営業所って、確かトラックが突っ込んで今閉店中じゃなかった?」
「え? でも……」
隼人はすぐに大迫営業所のホームページをスマホで検索すると、そのサイトを成美に見せた。
トップページにに「閉店中につき、お近くの店舗をご利用ください」といった内容の文言が大きく記載されている。
「人事に確認した方がいいよ」
「そうする」
「一緒について行く」
「ありがとう」
入社式を終え、広間を出て行く新入社員の中を逆走する形で戻り、人事部の人間を探した。
ちょうど面接で何度か顔を合わせた人事部長を見つけた成美は駆け寄った。
「失礼します。お伺いしたいことがあるんですけど」
「何かな?」
「私の配属先が大迫営業所になってるんですが、ホームページには今工事中と記載されていたので確認に来ました」
「もしかして、水野成美さん?」
「はい」
「後で個別に連絡しようと思ってたところだったからちょうど良かった。口頭で申し訳ないけど、水野さんは大迫営業所が正式な所属先で、店の工事が終わるまでは天神営業所が仮配属先ということで、そっちへ出社してくれるかな」
「天神営業所ですか?」
「向こうの店長には仮だということは既に話してある。大迫営業所の人間は今、あちこちの営業所に散らばっている状態で、天神の方にも3人が行ってるから」
「わかりました」
「どこの営業所でも仕事内容は変わらないから、がんばって」
「はい」
人事部長がばたばたと広間を出て行くのを見送ってから、成美は隼人に言った。
「天神営業所って、織田くんと同じとこだよね?」
「まさか同じ営業所で働くことになるとは思わなかった」
「明日からよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
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