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お互い利用したことのない駅で下車すると、2人ともが店を探すためスマホを取り出した。
駅前に続く商店街の名前を検索しかけて、すぐ手前にあった居酒屋が隼人の目にとまった。
店の看板には「一期一会」と書かれている。
ドアのところには「営業中」という札がかけてあり、その下に「日替わり定食 鶏南蛮」とだけ書かれた紙が貼ってあった。
「ちょうど店があるけど」
「急いでランチ食べて、すぐに出なくちゃいけない感じのお店かな」
そんな話をしていると、ちょうど店長らしき年配の男性が出て来て、2人に気づいて声をかけてきた。
「食べてってよ。うち、昼は人があんまり来ないから長居できるよ。ここで会ったのも奇跡みたいなもんでしょ」
まるで2人の話を聞いているかのような誘いに、隼人は成美に小さな声で「奇跡って大袈裟だよな」と言いながらも、入ることを決めた。
店内は、15、6人も入ればいっぱいになるんじゃないかと思われるくらいのこじんまりとした作りで、2人はテーブル席に向かい合って座った。
店長だったその男性の言った通り、客はほとんど来ることがなく、2人は早めのランチを食べた後も、随分長居をしてしまった。
途中、暇だったのか、店長が話しかけてきた。
「あんたたち運がいいよ。うち、昼は不定期にしか開けてないからさぁ」
「不定期に休みなんじゃなくて?」
「そっ。やりたい気分の日だけ開けてる。その代わり夜は水木以外毎日やってるよ。こっちは結構人が来る」
「水木が休みってめずらしいですね?」
「商店街が水曜休みで、人来ないから」
そんな話をしていると、常連らしい客が店に入って来た。
「めずらしく開いてるの見たから来たよ」
「いらっしゃい!」
「もっとまじめに仕事しなよ~」
「いやぁ、まぁそこは……」
その様子から、店長の言ったことはどうやら嘘ではないらしい。
「私たち運が良かったみたいだね」
「鶏南蛮も美味かった」
「夜も来てみたくなっちゃった」
「いいね。また来ようよ」
2人が店を出る時、店長が、店名の「一期一会」は、人と人の「縁」を大切にして欲しいという思いからつけたのだと教えてくれた。
「ご縁を大切に」
そう言われて、隼人と成美はお互いに顔を見合わせて笑顔になった。
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