*

先ほどから故意なのか偶然なのか、近吉の足が成美の足に当たっている。


成美が少し位置をずらすと、ずらした分だけまた近寄られた。



「あれ? マニキュアしてる?」



そう言いながら、テーブルの上に置いていた成美の手を近吉がにぎった。



「いえ、マニュキュアはしてません」


「本当?」



そう言いながら、成美の手をさわり続ける。


それだけにとどまらず、今度は成美の腰にふれるようにわざとらしくもう片方の手を置いた。


成美が少し避けると、その手もそれに合わせ、やはりふれるように置かれる。



「できれば手を離していただけると……」


「は?」


「あ……えっと……」


「それ、まるでオレがセクハラしてるみたいな言い方じゃね?」


「そんなつもりじゃないんです」


「んだよ。被害者ぶりやがって」


「ごめんなさい。本当にそんなつもりじゃなくて……」



成美は困ってもう一度周りを見渡したが、やはり誰もこちらを見ていない。


泣きそうになっていたところで、成美の後ろから、手が伸びてきて、冷酒の入っていたグラスをとった。



「これ、飲んでもいいですか?」



成美のすぐ後ろにしゃがんでいた隼人が、グラスの酒を一気に飲み干す。



「何だ、お前?」


「水野さんと同じ新入社員です。よろしくお願いします!」



そう言いながら、隼人は成美と近吉の間にぐいっと割り込んできた。



「水野さん、ちょっと邪魔なんだけど?」



隼人にそう言われ、成美が席を立つと、その場所に隼人が座った。


その時、化粧室から戻って来た事務の辻が、成美の方を見た。



「水野さん、何でそんなところに突っ立ってるの? こっちいらっしゃい。店長たちと飲もう」


「はい」



成美は辻に誘われて店長のいるテーブルに向かいながら、隼人の方を見た。

隼人はにこやかに近吉のグラスへ酒をついでいた。





10時を過ぎ店を出ると、皆が帰路につく中、隼人は天神営業所の何人かと話し込んでいた。

どうやら先輩社員達と2次会の店について話をしているようで、楽しそうな様子からすっかり打ち解けているのがわかる。


成美は邪魔をしないよう、隼人がこちらを向いた時に、「ありがとう」と口パクで伝えた。


隼人はただ笑って成美に手を振ると、先輩社員達と一緒に行ってしまった。

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