*

広間を出たところで、隼人と一緒にいた数人の中の1人が言った。



「さっきの、研修中にナンパ?」


「違う。落とし物を拾ったから渡しに行っただけ」


「織田、お前あんな中でよくその子が落としたってわかったな?」


「あー……なんでだか目立ってたから」


「へ? おれは全員同じに見えたけど?」


「ひとりだけ纏ってる空気感が違ってた」


「詩人かよっ」



背中を思いっきり叩かれ、隼人は笑った。



(本当に、何か違うんだけどなぁ……)



そう思いながらも上手く説明できる気がしなかったので、何も言わなかった。





隼人が成美を初めて見かけたのは研修の初日、ホテルへ向かっている時のことだった。



桜の花びらが、時折ふく風ではらはらと舞う中、隼人の前を1匹の蝶が飛んでいた。


こんなところでめずらしいと思いながら、隼人がその蝶を目で追っていると、少し先を歩いていたスーツ姿の成美の上で、その蝶は一度円を描いた。


そして、桜の花へと移り、やがて見えなくなった。


少し上を見ていた隼人がもう一度視線を成美に戻した瞬間、成美が立ち止まり、一度振り返った。


そしてまた、何事もなかったかのように歩いて行った。



たったそれだけのことだった。


けれども、隼人は成美から目が離せなくなった。

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