*

「それでは以上を持ちまして、研修は終了となります。ここで解散としますので、明日10時のチェックアウトは各自で行い、帰宅してください。皆さんと入社式で会うのを楽しみにしています。お疲れさまでした」



研修の最終日、夕食後に行われた解散式で、人事部長が挨拶を済ませ会場となっていた広間を出て行くと、誰かが「終わったー!」と声をあげた。

それが合図かのように、会場内は一気に騒がしくなる。



成美は会場の中で千智を探したが、なかなか見つからない。

そんな時、背の高い隼人が成美の視界に入った。

研修中、千智は深津と同じグループだったと言っていた。そして深津は隼人と仲が良い。もしかしたら一緒にいるかもしれないと思った成美は、隼人の方へ向かった。

思った通り、千智は隼人の隣で深津と話をしていたが、成美が近づくと、隼人がそれを千智に教えた。



「水野さん、ちょうど良かった! 今ね、深津くんたちとこれから集まろうって話してたとこだった」


「またこの前のメンバーで、打ち上げするんだけど、どう? 今回は一人予算2,000円くらい」


「水野さんも参加するよね?」


「お願いします」


「じゃあ決まり。コンビニに買い出し行って来るから、先に部屋に行って待ってて。武岡さんが先に行ってると思うから」



「前も深津くんに買いに行ってもらったし、手伝うよ?」


「何か出来ることがあったら言ってください」


「大丈夫。こいつがいるから」



深津が「こいつ」と呼んだのは隼人で、成美にペコっと頭をさげ、深津と一緒にエレベーターへ向かって行った。


千智が2人の後ろ姿を見ながら言った。



「深津くんって、大人っぽいよね~。それにリーダータイプ」


「わかる。でも恩着せがましくないっていうか、仕切ってる感がないね」


「さらっとまとめ役みたいな?」


「そう! そんな感じ」


「織田くんとも仲がいいみたい」


「同室だからじゃないの?」


「それ関係なく仲いい感じ。深津くんが織田くんの面倒見てて、あれはまるで兄弟だねー」



成美と千智が少し遅れてエレベーターへ向かっていると、先に行ったはずの深津がひとりで戻って来た。



「ごめん、悪いけど水野さん、織田と一緒に買い出し頼めない?」


「いいよ」


「どしたのー?」


「スマホどっかに忘れた」


「あ、じゃあわたしはそっち探すの手伝うよ」


「助かる」


「水野さん、後でね!」


「うん、後で」



広間へ戻る深津の後を千智はついて行った。


それを見て、成美はエレベーターの前に立っている隼斗に駆け寄った。



「織田くん、私が深津くんの代わりに行くことになったから」

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