3
翌朝、いつものように目を覚ました。
最近よく夢を見るようになった気がする。
それもだいぶ長編の夢。内容は覚えていない。
今の時刻は7時40分。もう食堂は開いている。
急いで身支度をして食堂へ向かう。
朝の病院は何だか明るくて好きだ。
今日のメニューは、ポテトサラダと豚肉の生姜焼き。
今回も大好きなごはんだ。
ポテトサラダはなめらかで、具材はおっきい。
おいしい。
ポテトサラダはお子様ランチに入っているようなまん丸のやつだ。
遊園地のお子様プレートが食べてみたかった。
新しくできたすずめヶ丘遊園地にはジェットコースターも観覧車もある。
これができるまでの2年前は隣の県まで行かないといけなかった。
もうあんまり覚えていないけど、僕が2歳のときに一度いったことがあるらしい。
風雅は食べるのが人よりずっと遅くて、幼稚園のときにはそのことを注意されたことがあった。
でも病院では遅いことを咎められたりしなかった。
それどころか味わって食べてえらいねなんて褒められた。
今日はこはるちゃんの部屋で遊ぶ約束をしていた。
こはるちゃんの朝は忙しいから、9時にいこう。
僕はゆっくり食べるから、ちょうどいい時間だった。
ごはんを食べ終えると、こはるちゃんの部屋まで歩いた。
てくてくてくてく
何人かの人とすれ違う。
目的の病室までつく。
「石野小春」って書いてある。
その隣には今人気のでかかわのイラストが描いてあった。
こんこんこん
「どうぞ」
中から声が聞こえて、僕はドアを開けた。
「こはるちゃんおはよう」
「おはよう、風雅」
こはるちゃんはちょっと疲れたような顔をしていた。
こはるちゃんが出してくれたのであろう椅子に座る。
「こはるちゃん、病気ひどいの?」
こはるちゃんは驚いたような顔をして答える。
「えー、なんで?」
僕はちょっとこはるちゃんに詰め寄って言う。
「だってこはるちゃんの病室いっつも山本さんきてるでしょ?」
こはるちゃんはぎくって顔をした。
「あんまり良くはないのかな…?」
こはるちゃんはそう言ってはぐらかした。
僕はわかっていた。
彼女がもう長くないことを。
しかも僕よりも先に死んでしまうことを。
わかっているのに、こはるちゃんはそれを隠すように明るく言った。
「ううん、大丈夫だよ、私強いから」
それが余計に悲しかった。
僕もこはるちゃんに合わせた明るい声でよかったって言った。
話をかえよう。
「こはるちゃん、学校って行ったことある?」
「うん、あるよ」
こはるちゃんはいつもの笑顔に戻っていた。
「楽しい?」
こはるちゃんは自分を説得するように言った。
「うん、楽しかったよ小学校」
僕も行きたいなとか言ってみる。
こはるちゃんは昔を思い出すように黙り込んだ。
僕も考えていた。
小学校に行ったらどうするだろうって。
勉強はちょっと嫌いだけど、みんなで授業を受けてみたい。
給食を食べてみたい。体育がしたい。
テストでいっぱい100点をとりたい。
運動会にでたい。
たくさん思いついたけど、全部うそだ。
学校なんてきらいだった。行けなくてよかったなんて思った。
学校ではみんなと一緒じゃないとだめだし、みんなより秀れてないといけない。
そんなの無理だった。
悪いようにはみ出す僕が学校でうまくやっていけるわけがなかった。
よかった。行けなくて。
こはるちゃんを見やる。
どんどん顔色が悪くなっている。
「こはるちゃん?」
僕は心配して顔を覗き込んだ。
するとこはるちゃんは無理に笑顔をつくった。
その顔が僕は大嫌いだった。苦しんでいるから。
僕がこはるちゃんを笑わせたかった。
「こはるちゃん、僕小学校いってみたい」
小学校に行きたがる僕が好きだった。
こはるちゃんはぽーっとするような憧れるような、きらきらしたような顔になって言う。
「風雅、明日小学校一緒に行こっか」
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