第53話
「お願い・・・インハルト。私を、殺して・・・・」
「・・・・・」
「もう、あんな想いはいや・・・こんな身体もいや・・・・」
ずっと気を張っていた彼女の頑丈な糸が音を立てて切れた。
エルミーユの瞳からは枯れたはずの涙が溢れ始める。
本当は恐く、辛く、痛かった。
彼らに突かれる身体も、彼らに浴びせられる残酷な言葉も。
処女を失った時は生き地獄を味わされているようなものだった。
双子に、インハルトは処女の血を求めているだけと言われ、胸が張り裂けそうな想いになりながらひたすら裂かれていく身体。
それを思い返すとエルミーユは涙が止められなくなった。
「はやく殺して、ねえ、殺してよぉ・・・・」
こんな姿を見せるはずではなかった。
彼は強く気高い自分が好きなのに、最期の最期に彼の望む自分ではいられなかった。
全てが後悔の念に駆られるも、もう遅い。
「・・・そんなに俺に殺されたいなら、殺してやる!」
インハルトはエルミーユの首根っこを掴み引き剥がすと、彼女のこめかみに銃を突き付けた。
冷たいと思っていた銃口は今の今まで硝煙を放っていたかのように熱い。
インハルトはエルミーユを抱いて逃げる際、何人かの兵士を銃で殺していた。
殺すことすら厭わないインハルトなら自分の最期の願いを容易く叶えてくれるはず。
インハルトが銃のハンマーに親指を掛けると、カチャリと冷えた音が小屋に響いた。
エルミーユは彼に「ありがとう」と一言告げると目を瞑った。
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