第52話

インハルトはこれまで築き上げてきた地位も名声も全て捨てエルミーユと共にすることを選んだのだ。


それなのに────



「何故・・・何故お前は死のうなどと・・・」



抑揚のない無情な男の声が震えている。



エルミーユは自分がインハルトに抱き締められていると理解するまで数分に及んだ。



そして「何故」と問う彼に、エルミーユも又聞き返す。



「なぜ・・・・何故私を連れ出したの・・・何故私を死なせてくれなかったの・・・」


「お前は・・・死にたかったのか?」


「、死にたかった・・・。もうこんな身体、貴方には見せられないもの・・・・」



弱々しくそう呟くエルミーユに、インハルトは自分の愛が伝わらなかったのかといきどおりを感じた。



「俺が存在するのに、お前は死にたいと思ったのか・・・。」



地下牢からエルミーユの姿が消えた後、インハルトは自分が彼女に裏切られたのではないかと懐疑心かいぎしんを抱いていた。



しかし彼女と育んだ愛を思い出し、何度も自らを震い立たせ、決死の想いで居場所を突き止め奪還まで漕ぎ着けた。



それなのに今自分の腕の中にいる彼女は死を望んでいる────・・・・



・・・・────

双子に無数に付けられた咬み痕。何度も欲望を吐き出された身体。そして自分さえ居なければインハルトは幸せになれるという身勝手な想い。



もうエルミーユに生きる気力等残されてはいなかった。例え今インハルトの腕に抱かれていたとしても。



この身に触れられることさえ罪の意識にさいなまれていた彼女は彼に懇願する。

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