第51話

────・・・・



窒息死とは辛く苦しいものだと彼女は思っていた。その亡骸は醜いもので、今の自分には相応しい死に方であると窒息死を選んだのだ。



それなのに、木漏れ日にいるかのように暖かく心地いいと感じるエルミーユ。



インハルトと対峙していた時の自分。


インハルトに生かされキスされた時の自分。


地下牢でインハルトに愛されていた時の自分。


産まれてから壮絶な経験をし、仲間や家族との思い出も沢山あるはずなのに、


思い出すのは全てインハルトとの出来事。




暖かさと共に真っ白だったエルミーユの脳裏が次第に引き戻されていく。



唇に触れた柔らかい感触に意識を起こされ、彼女はゆっくりと瞼を開いた。



「エルミーユ・・・っ」



らしくない枯れたような声で名前を呼ばれ、エルミーユも喉の奥から必死に吐き出すようにしてその名前を発した。



「・・・インハルト───・・・・」



インハルトが痩せ細った彼女の身体をきしませるように強く抱き締めた。




監獄塔からも屋敷からも離れた古い山小屋。



外からの侵入が不可能な監獄塔で、内部の者が手助けをした可能性が高いと直ぐに監獄塔に関わる者の調査が行われた。



以前警察部隊本部にて、アーチが機密情報部制御室の者たちを追い出し、制御室にアーサと籠りパソコンを使用していたことは調べがつけらていた。



極秘裏に進められていた部隊の踏み込みの時期を見定め、ようやくエルミーユの奪還に至ったのだが、


インハルトは部隊の目を忍び、この遠く離れた山小屋まで彼女を連れ出した。



このまま監獄塔に戻れば、捕縛された双子の密告から二人とも処刑されることは目に見えていたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る