第54話

エルミーユの手に、生温かいものが滴り落ちる。



響くはずの銃音が一向に鳴らない。



エルミーユがそっと目を開くと、インハルトの瞳からは涙が流れていた。



・・・・この無慈悲な男が涙を流す等信じられない光景だった。



エルミーユはそっと彼の濡れる頬に手を添えた。



「な、なぜ泣いて・・・」


「できない・・・俺にお前を殺すことなど、

無理だ・・・!」



インハルトがエルミーユに当てていた銃を下ろすと、その唇でエルミーユの唇を塞いだ。



塞いで、舐めて、彼女の口内へと舌をじ込み絡ませる。



二人の涙が混ざり口内へ入ると、唾液に緩和され甘さを放ち始めた。



強いられた媚薬では決して保つことのできない、二人だけの甘くて強固な愛の媚薬。



「早く助けに行けず、すまなかった・・・」


「・・・・インハルト」


「もう離さない、世界に阻まれようとどこまでも一緒だ。」


「・・・私は、穢れているのよ・・・」


「穢れて等いない!どんなお前でも俺は、永遠に愛している────」



この世に二人の愛が認められる場所があるかどうかは分からない。



あったとしてもこの先ずっと追われる身だ。



ヴァンパイアにも、ハンターにも、


そしてエルミーユの屈強な心に魅入られたアーチとアーサにも。



彼らは自国に捕縛された後一般兵に降格することになっていたが、捕縛中に逃亡した。



それらの懸念すらも凌駕するインハルトとエルミーユの愛はどこまでも続いていくことだろう。



二人の命が尽きようとも、愛の媚薬は仄かに二国の掛橋を紡いでいくはず。










~case3-5. Fin~

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