第39話

髪につく泡が流されていくとアーチが真上から優しい顔を落とす。



「じゃあ次は身体を洗っていくから、そのまま湯船に浸かっていてね。」


「か、身体も?!」



咄嗟にバスタブの縁に乗せていた頭を持ち上げるエルミーユ。身体と聞いて更に深く湯の中に身を隠した。



「大丈夫、触診みたいなものだから。怖がらないで?」



アーチの柔らかい手がエルミーユの肩に置かれると、緊張を解すように左右に擦った。


でもエルミーユの鼓動は早まる一方で、それを抑えるために深く深呼吸をした。



「大丈夫」というアーチの優しい声と肩を擦る温かい手がゆっくりエルミーユを落ち着かせていく。




「じゃあ首回りから診ていくから。」



アーチが彼女の髪の隙間から首元に浮かぶ青い血筋を二本の指で辿っていく。



妙なむず痒さが湯船に音を立て泡を作り、小さく弾いた。



その指先は決して女を扱う触り方ではないのだとエルミーユは自分に言い聞かせた。



「・・・・咬み痕はここだけだね。これはインハルト様の牙かな。」


「・・・・え、ええ。」



首とうなじの間を指の腹で圧され確認される。



インハルトとの密会を指摘されたかのように恥ずかしさが込み上げるエルミーユ。



インハルトは彼女の身体に傷がつかないようにといつも同じ箇所から吸血していた。


その痕が彼から愛されているという証拠にもなりエルミーユは嬉しく感じていたのだが・・・


さすがに他人に見られ触れられるのには耐え難いものがある、


そろそろのぼせてきたかもしれないとエルミーユは顔を熱くするのだった。



しかし今首に当てられていたアーチの指がそのまま鎖骨を伝い、一気に胸へと下ろされた。

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