第36話

「・・・貴方が、私をこここまで連れて来たの?」


「うん、そうだよ。」


「・・・何故」


「・・・そうだね、じゃあ早速今からその話をしようか。あ、っとその前に」



そう言ってアーチがエルミーユの肩に手を置くと、エルミーユは反射的に逃れようと一歩足を後ろに下げた。


しかし久々に歩く足は上手く下がることが出来ず、足がもつれて転びそうになる。


エルミーユが目を瞑り背中にくるであろう痛みを堪えようとすると、自分の身体がふわりと宙に浮くのが分かった。



アーチが彼女を横抱きに抱き上げたのだ。



「っ!」


「・・・あんたの神経はやっぱ鋭いね。でもずっと繋がれてたんだから無理は良くないよ?」



エルミーユに優しい笑顔を落とすアーチ。


その表情にエルミーユは「ありがとう」と返すしかなかった。



でもアーチは彼女を抱き上げたまま、部屋の奥にあるドアの方へと移動する。


その白い片扉をアーチが開けると、中には浴室が広がっており、すでにバスタブからは温かそうな湯気が白く上がっていた。



「あんた、地下廊では女看守に身体を拭いて貰ってただけなんでしょ?お風呂なんて久々じゃない??」


「・・・え、ええ。」


「じゃあまずはお風呂に入って綺麗にしなきゃね♪」



アーチがエルミーユを床に下ろすと、彼女の白いワンピースを脱がせようと再び肩に手をかけた。



「なっ!」



エルミーユはすぐに彼の手を振り払い、壁際に後退する。



その様子にアーチが酷く悲しげな表情を見せ、エルミーユは思わず「しまった」と後悔せざるを得なかった。



「お、お風呂なら自分で入れるから・・・ありがとう。」


「・・・でも僕はインハルト様から命を受けて、あんたの身体に傷がないかをチェックしないといけないんだよ。」


「イ、インハルトが?!」


「うん。」



インハルト、とは黒髪の男の名前。


その名前にエルミーユが明るい表情に変わる。


自分の抱いていた希望が叶ったのだと嬉しさを隠せなかった。

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