第34話
しかし彼らよりも焦りを隠せない様子で隊服を着崩したままの男が地下を早歩きで駆け抜けていく。
いつもならば真っ先に主任を問いただし何の感情も出さず、手を紅く染めることを
その男が地下で敬礼をする看守たちを素通りし、一直線に地下牢へと向かう。
何故だ、一体何が起こったのか、
男の頭の中に螺旋の疑問が果てしなく浮かび、今その応えの前に立ちはだかる。
地下牢の分厚く重い鉄の扉は少しばかり浮いていた。
どういうことだ─────
手足を繋がれ水滴すら侵入を赦さないこの地下牢から彼女は逃げ出したというのか。
嫌な汗と生唾が喉元を伝い、手を交差する必要もない重い扉のハンドルを握り締めるとゆっくり開いた。
天井から吊るされた鎖がだらしなく左右に垂れ下がり、彼女につけられていた手枷足枷ごと綺麗になくなっている。
「・・・・鎖を引きちぎって脱走したのかな?」
黒髪の男の背後から銀髪の長い髪を右で一つに結んだ男がぬっと牢を覗き込む。
「とんだ馬鹿力の女だね?だからさっさと処刑しておけば良かったのに。」
銀髪の男が背中越しに黒髪の男を挑発するように微笑む。
しかし黒髪の男はそれを挑発と気付くこともなく、空になった牢内を眼と足で静かに探り始めた。
男の足音が反響すると赤い目が小刻みに泳いでいく。
牢の外では黒髪の矯正監のいつもと違う様子に看守たちが互いに顔を見合わせていた。
その男からようやく命が下される頃には、
すでに女は双子の片割れの手中にあるのだった。
ヴァン・ヘルシングの娘は脱走したのではなく、拐われたのだ─────
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