第28話

「お前の香りに酔いしれそうだ。」


「ふっ・・・んッ」



黒髪の男が女の唇に触れるようなキスをすると女の鎖骨を指でなぞらえていく。



指の腹で撫でるように、そしてその後を追うように唇で這わせていく。



囁きかけるような唇で女の鎖骨に優しく触れ、胸の突起を掌全体で転がした。



「・・・あっっ、さっきの銃声で

人が来ちゃう・・・」


「・・・今の見張りはこいつらだけだ。

それにお前は俺だけのものだとあの世でも分からせないと気がすまん。」


「あっ」


「・・・感じていいのはこの俺だけだとこの身体にも調教する必要がある。」



先程の男達とは違い、甘く感じさせるためだけの愛撫だと男の表情から見てとれる。



無表情ながらも優しく女を見つめる姿は一人の女に愛を捧げる男の姿だった。



非情で冷徹と恐れられるヴァンパイアの男と、強く気高いハンターの女。



二人は敵同士でありながらも赦されない恋に囚われていた。



──────



ヴァンパイアとハンターの戦闘の最中、



男と女の何時間にも及ぶ戦いが繰り広げられる。



だだっ広い草むらに横たわる両国の残骸。



生臭い血の臭いと女の甘い血の匂いが交差する。



ついに女は黒髪の男に組み敷かれ、剣を胸に突き立てられた。



息を荒げ、月夜に照らされながらも自分の上に股がる男に、しっかりとその瞳を見据え覚悟を決める女。



怯えることも縋ることも無く、自分を殺す相手を瞳に焼き付け最期を迎えようとする女の姿は酷く官能的な覚悟であった。



空まで血を翔ばせと女の鋭い眼光が男の赤い瞳を捕える。



交差する血の香りに酔ったか、女の覚悟に見入られたか。



男は胸に剣を突き立てる代わりに、白い息を吐く女の唇を自身の唇で塞いだ。



キスと呼ぶには弱いその口づけは、次第に女の胸をたかぶらせていく。



死の覚悟が赦されぬ恋情へと移り変わった瞬間だった。

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