第172話

「暴行事件の犯人はお前なのか!ハン!!」


「・・・なんで、ボク?被害者には、噛み痕があるんだよ?」



ハン君がふふっと馬鹿にしたように笑う。



「噛み痕なんていくらでも作れるだろっ!」



拳をさらにめり込ませて、凌久の腕の筋肉がミシミシと音を上げる。



「凌久!!腕が折れちゃうっっ!!」



凌久、凌久は色んな人を守りたいんでしょ??


ならこんなとこで私なんかを守らなくてもいんじゃない?!



・・・ハン君が狙ってるのは私だけなんだから!



私はブランコから飛び降りると、2人から右の方へと勢いよく走った。


ショルダーバッグが絡まったようにわずらわしくって、身体から引き剥がすようにバッグを投げ捨てる。



でもそのバッグが自分から離れた瞬間


轟音が公園中に鳴り響いた。



ドオオオオオオオオオオンッッ



「ッッ!!」



思わず振り返ると

前から砂埃に覆われるような光景を目の当たりにした。



凌久は・・・凌久はどうなったの??!!



何度も優しく私に手を差し伸べてくれた凌久。


私は凌久の元には行かないと何度も心に決めたのに、


自殺してしまった大事な子の代わりにはなれなくてごめんと、心のどこかで思ってしまう自分がいた。


何一つ縁のない凌久が私のことを「守ってやる」って言ってくれたこと


凌久の元には行かないと言ったのに今日動物園に連れて行ってくれたこと


私に「逃げろ」って言わなかったのは、凌久から離れたらすぐに捕まる可能性が高いからで


私から離れずにいてくれたこと。



全部全部、ありがとう────。

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