第53話

「まあいいや。試してみれば分かるよね?」



庭から微量の殺気を感じ取った私の勘は小さいながらに冴えていたらしい。



彼が一瞬のうちに私の胸ぐらを掴み、上から吊るすように高く持ち上げた。


ただでさえぶかぶかのTシャツがブランコのようにぶらぶらと揺れる。



身体が震えすぎて視界が定まらない。


動体視力の良さが自慢の私の目は、完全に恐怖で潤んでいた。



叫びかけたその時、咄嗟に彼が私の吸い込んだ息を遮る。



「子供は嫌いなんだ。」


「っ!!!!」



彼がスーツの内ポケットから小型の折り畳みナイフを取り出した。


手首のスナップを効かせナイフの刃を出す。


まずいっっ!!!!


なんで私はこんな時にこんな小さくなってんだ!!!!



「声を上げたら君を切りつけるからね?」



揺れるTシャツの横からチラチラと彼の不気味な笑顔が見える。



ふと下に目をやるとけっこうな高さまで持ち上げられている。


このまま腕をシャツから抜いて下に落ちても怪我をするかもしれない。


それにきっとすぐに捕まる。



怖すぎて目から涙が出るのを躊躇ためらっているのが分かる。


この人は誰なんだろう。


少なくとも"宮部"ではないということは分かった。



彼が揺れる私から何かを感知したように深く深呼吸をする。



「うん、小さくても狂血きょうけつの匂いはするね。」



それはきっと私の血を求める人物であると同時に、彼がヴァンパイアであることを意味する言葉なのだろう。



そんなことよりもプラプラと胸ぐらを持ち上げられている私の下半身はパンツ一丁だ。



最悪すぎる展開に私の思考と顔はぐちゃぐちゃになっていた。


震える小さな手足をどうすることもできない。




「君のお姉さんはあんなことがあっても一切叫ばなかったらしいよ?


だから君も、頑張ろうね??」




耳を疑いたくなった。



それを言われると余計に私の恐怖を煽るのだということをこの男はよく知っているのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る