2話 目覚めの違和感
薄暗い部屋の中で、風間瑞貴は突然息を切らして飛び起きた。全身にじっとりと汗をかき、心臓が異常に早く脈打っている。まるで、自分が死の淵から戻ってきたかのような感覚だった。
夢の中で見たのは、荒れ果てた戦場だった。
炎が舞い上がり、兵士たちが叫びながら倒れていく。自分を守ろうとする一人の武将――その背中が印象に残っているが、顔はどうしても思い出せない。
瑞貴はベッドに腰を下ろし、荒い息を整えながら、夢の中の自分が今の時代に戻ってきたことを実感する。だが、その夢の残滓は心の奥に深くこびりついていた。
「なんだ、あの夢は……」
過去のどこかで実際にあった出来事のような鮮烈な感覚が消えず、瑞貴は額に手を当てた。
「あの男は誰だったんだ……」
ふと疑問が心に浮かぶが、それ以上考える余裕もないまま、朝の準備を進めることにした。
§
講義が始まる時間が迫り、瑞貴はキャンパスへと急ぐ。
人混みの中を足早に進むと、前方に昨日の特別講義で見た新しい顔――篠宮蓮の姿を見つける。
蓮はゆっくりとした歩調で校舎へ向かっており、誰とも話さず、静かに歩いていた。
瑞貴は自然と蓮の後ろをついていくように歩きながら、胸の中に奇妙な感覚が広がっていく。
理由ははっきりしない。だが、なぜか彼の後ろ姿が、夢の中で自分を守ろうとした武将と重なって見えた。
「何なんだ、この感じ……」
瑞貴は胸の鼓動が速くなるのを感じたが、自分でもその理由が分からない。初対面のはずの相手に、なぜこんなに惹かれるのか――その答えを見つけられないまま、瑞貴は彼の名前を呼ぶことを躊躇ってしまった。
§
講義室に着くと、蓮は一番後ろの窓際の席に静かに座った。瑞貴は一瞬迷った後、蓮の隣の席に腰を下ろす。
昨日も隣に座ったことで、蓮が自分を避けようとしていないことを感じ取り、内心安堵した。
「おはよう、篠宮くん」
瑞貴は何気なく声をかけたが、蓮は無表情のまま、軽く会釈を返すだけだった。その態度に、瑞貴は少し戸惑いを覚える。だが、不思議とそれが冷たいとは感じなかった。むしろ、何か深い事情があるのだと感じさせる静かに悟った。
講義が始まると、瑞貴は蓮の横顔を時折盗み見る。彼の無表情な顔の奥に、何か重いものを背負っているように見えた。それが何かを知りたいという気持ちが湧き上がる。
――不思議なやつだな……。
瑞貴はそう内心に響かせながらも、蓮との距離をどう詰めればいいのか迷っていた。しかし、蓮もまた心の奥で瑞貴を見つめていた。
「あなたこそ自分が探していた人だ」
と、大声にして伝えたい――だが、記憶を失った瑞貴にその事実を告げることはできない。
「今はまだ、待つしかない」
蓮は心の中で自分にそう言い聞かせ、目の前の授業に集中しようとする。と、同時に瑞貴との再会を果たした喜びと不安が、彼の胸の奥で静かに渦巻いていた。
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