第17話 瀬戸宮先輩と母さんの話し合い

(ピコン)


 スマホが震えて通知が鳴った。


 "新堂君、今光龍ギルドのロビーにつきました"


 相手は瀬戸宮先輩でそんな報告だった。


 両親と俺は瀬戸宮先輩が来る事になっていたので同じ部屋で待機していた。

 父さんはギルドの資料整理。母さんは少しでも神久の情報を集めている。

 

 因みに両親には既に昨日瀬戸宮先輩に貰った資料を見せてあるが、神久は本当に上手く隠しているらしく裏を取る事にはもう少し時間が掛かるとの事だった。


 俺は瀬戸宮先輩に"今から迎えに行きます"とだけ送ってソファーから立ち上がった。


「父さん、母さん、瀬戸宮先輩が着いたらしいから迎えに言って来る」



 ――ロビーに行くと瀬戸宮先輩は座って待っていた。


「瀬戸宮先輩おはようございます」

「おはようございます、新堂君」


 俺がそう言うと瀬戸宮先輩は表情を全く崩さずお辞儀をして挨拶を返して来た。


「わざわざ来てくれてありがとうございます」

「いえ、それはこちらのセリフです。最初は信じて貰えると思って無かったので……」


 まぁ確かに、神久和樹とずっと一緒に居た訳だから疑っても良かったのかも知れないけどね……あんな目を見ると信じざる負えないからな。

 てかあんなに表に感情が出てたのに良く隠しきれたよな……まぁ、瀬戸宮先輩の事だからそこら辺は上手くやったんだろうけど。


「そうですか。まぁ、ここで話すのもあれですし両親の居る部屋まで行きましょうか」

「分かりました」



 ――俺は瀬戸宮先輩を連れて両親の部屋に来て四人で座っていた。


「今日はお呼び頂きありがとうございます」


 瀬戸宮先輩は一通り挨拶をした後、深く頭を下げてそう言った。

 因みにこの話し合いでは俺は静かにしているつもりだ。

 俺は瀬戸宮先輩を信用しているが、両親は完全には信用出来ていないからしっかりと瀬戸宮先輩の事を信用して貰うには、瀬戸宮先輩に頑張ってもらって信用を勝ち取ってもらうしかない。


「頭を上げてくれ」


 父さんがそう言うと瀬戸宮先輩は頭をそっと上げた。


「えっと、雪ちゃんで良いのよね?」


 続けて次は母さんが話し出した。


「はい。そうです」

「雪ちゃんのくれた情報の裏を取るにはもう少し時間が掛かる事もあって正直に言うとそこまで信用は出来て無いの、ごめんなさいね」

「……いえ。勿論大丈夫です。こんな風に話し合えるとすら思っていなかった位なので」


 母さんは少し圧を掛けてそう言った。

 まぁ、母さんと父さんからしたらギルドの未来が掛かった話し合いでもあるので当然だろう。

 それにしても瀬戸宮先輩凄いな……確かCランク冒険者だったはずなのに母さんの圧を受けても表情をほとんど崩さずにしっかり返答出来ている。


「雪ちゃんのほかにこ情報を知っている人はいる?」

「この場に居る四人と私の両親のみです」

「そう……でも良く集められたわね、この情報が確かなら簡単に事は済みそうね」

「ありがとうございます」

「でも雪ちゃん達はこの情報を持っていて何もしなかったの?」


 母さんがそう言うと表情こそ変わっていないが拳を強く握り答えた。


「しなかったのではなくて出来なかったんです……後ろ盾も無く自分たちで情報を流してもどうにかしてもみ消されますし、その後どうなるかも火を見るよりも明らかですし……かといって私や両親の力では神久がどの位幅を利かせているのか探る事が出来なかったので他を頼る事も出来ませんし」


 確かにそれはそうだな……俺は特に考えていなかったけど父さんと母さんが言うには神久は新聞社や情報局にも繋がりがあるとかないとかって感じだったしな。

 中途半端な事をしたらホワイトギルドは一瞬で最悪な結末になりかねないって訳だな。


「そうね。それじゃあ次の質問ね。雪ちゃんは一応神久和樹とは小さい頃からずっと一緒に居たわよね?そんな神久和樹がどうなっても大丈夫?何とも思わない?少しでも罪悪感や助けてあげ……」


 そんな母さんの言葉を遮って瀬戸宮先輩は話し出した。


「ありえません!!神久和樹……アイツや神久家は潰れて当然なんです!!そうなって私が思う事があるとしたらざまぁ見ろ!って思いますよ!私を含めて今まで苦しめて来た人達を思えば再起不能になって欲しい位です!!!」


 瀬戸宮先輩は前のめりになり珍しく感傷的になってそう言った。

 そんな瀬戸宮先輩の目は鋭く本気の心からの叫びに見えた。

 

「すみません。少し感傷的になりすぎました」


 瀬戸宮先輩は少ししたら落ち着いてそう頭を下げた。


 瀬戸宮先輩の返答を聞いた母さんは深く息を吐いてから微笑んで言った。


「そう。分かったわ。私も雪ちゃんの事を信じるわ」

「え?」


 瀬戸宮先輩は母さんの突然の言葉に目を見開いた。


「ごめんなさいね。これは内緒にして欲しいんだけど、実は私って人の感情を読み取れるスキルを持ってるの」


 え?何それ?俺も初耳なんだけど?

 俺がそんな事を思っていたら母さんは言葉を続けた。


「それでいくつか質問をしてみようと思ってたんだけどさっきのだけで十分みたいね……あれだけ怒気の深い感情はなかなか見れる物じゃないからね」

「そう……なんですね。ありがとうございます」


 瀬戸宮先輩はほっと胸をなでおろしてそう言った。


 因みにここまで父さんは全く話していないが理由は簡単だ。

 昔からこういった話し合いは母さんが得意だからだ……って感情を読み取れるスキルがあれば当然そうだよな……そんな事を俺は思っていた。


「それにしても良くここまで情報を集められたわね」


 母さんは先程までとは違く、優しい声でそう言った。


「はい。数年間集めましたから。それに神久和樹は隙が凄くあるので……」

「そうなのね。よし!じゃああなた、さっきまではこの情報が正しいのか分からないからどこまで調査するか迷ってたけどもう大丈夫よ。全て正しい情報と思って調査しましょう」

「そうだな。きみがそう言うならそうしようか」


 母さんの言葉に父さんはそう言って返した後、瀬戸宮先輩に一礼した後に移動してパソコンをいじり始めた。


「そうだ!雪ちゃん?ホワイトギルドって今大丈夫なの?龍星からは経営が大分傾いてるって聞いたけど」


 母さんは何かを閃いたようにそう言いだした……これはまた変な事を言い出しそうだな。

 まぁ、今に始まったことじゃないけどな。 


「そうですね。かなり厳しい状況ではありますね……」

「そうなのね、それじゃあ光龍ギルドとパートナーギルド契約を結びましょうか」

「え!?」


 瀬戸宮先輩は今までにない位びっくりしていた。

 

 パートナーギルド契約か……確かにいい案ではあるな。

 光龍ギルド目線で言ったらまぁ、今で考えるとメリットはほぼ無いけどホワイトギルドの事を考えるとそうした方が良い。

 パートナーギルド契約とは詳しく話すと長くなるが、簡単言うと結んだギルド同士は対等で優先して助け合うって事だ。


 ホワイトギルドの世論はあくまでも神久ギルドとの繋がりが深いと思われている。

 そんな神久ギルドに再起不能になる程のスキャンダルが世に出回るとなると必然的にホワイトギルドも影響を受けるだろうから母さんはそこを懸念したんだろうな。

 光龍ギルドとパートナー契約を結べばそう言った奴らからちょっかいをかけられる事はまずなくなるだろうから。


 父さんもそれを聞いても何も言って無いし母さんがそう言う事をあらかじめ予見していたんだな。


 母さんが光龍ギルドにメリットの無い事をする理由は多分……


「大丈夫?雪ちゃん?」

「あっ、はい!大丈夫です。ちょっとびっくしし過ぎて……」

「それにしても雪ちゃんって本当に可愛いわね」


 母さんはそう言って瀬戸宮先輩に抱き着いて頭を撫で始めた


「え?新堂君のお母様?」

「私は光だからそう呼んでね」

「は、はい、それでこれは?」

「ごめんなさいね、雪ちゃんが可愛すぎて我慢できなくなっちゃってね」


 そう……俺の母さんは女の子が大好きなんだ。

 これだけ聞くとなんかヤバそうに聞こえるが勿論変な意味では無く親心みたいなものだ。

 特に瀬戸宮先輩みたいなクールな美人が大好物なのだ。


 まぁ、光龍ギルドくらいトップギルドだとホワイトギルドとパートナー契約を結んでもデメリットはゼロと言っても良い位だし俺もいいと思うけどね……

 寧ろ瀬戸宮先輩はSランク冒険者になれる位のスペックを秘めているって父さんは言ってたし将来的にはメリットかな。

 

 母さんは未だ瀬戸宮先輩の頭を撫で続けている。

 瀬戸宮先輩はそれに戸惑いつつもそれを受け入れている。

 父さんは意に介せず作業を続けている。


 俺はそんな光景を見ながら苦笑いをしていた。

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