第16話 瀬戸宮雪の希望
「お母さん……お父さん……また一人ギルドメンバーが神久ギルドに行ったってホントなの?」
「えぇ……」
「そうなんだ……」
目を閉じると頭に浮かぶ。
こんな会話をしたのは数週間前だが、そう言うお母さんとお父さんはすっかり疲弊しきっていたがそれも当然な話だ。
この数年間ホワイトギルドが軌道に乗り始めた時から、神久ギルドに汚い手で邪魔されまくっていて何も出来ない無力さでいっぱいだからだ。
勿論それは私も同じで結局今の今まで神久に対して何も出来ていない。
思えばこうなってしまった原因は私にある。
当時小学生の私は同年代の子と馴染む事が出来ずにいたのだが、神久和樹はそんな私に良く話かけてくれていて、当時の私はそれが嬉しく神久和樹と仲良くなってしまったのだ。
後から分かった事なのだが、それは神久和樹の父親が仕組んだ事で私と神久和樹を近づける事で私の両親に近づこうとしていたみたいだのだ。
神久和樹がいつから腐ったのかは正直分からない、もしかしたら私が気付いて居ないだけで私と近づいた時も既にそうだったのかもしれない。
そんな私だが確かに神久和樹と関わり始めてから笑顔が増えていたのだろう……神久和樹の父親はそこをついて両親にほぼ強制的に契約を結ばせたらしい。
当時の両親は個人で冒険者をしていてそこそこ有名だったので目を付けられたのだろう。
私はそんな事に気付かずに中学三年生まで過ごしていた。
両親が明らかに様子がおかしくなったのはその頃だった、帰りも遅くなり顔色も悪い日々が続いていた。
そんな両親を見た私は心配になり両親に尋ねたのだが、簡単には教えて貰えずに真実を知ったのは私が初めて聞いた日から一月後の事だった。
私はその事実を聞いて絶句した。
両親は私の笑顔を守る為にそんな事を……
正直に言って神久和樹とは数年間一緒にいたが、この話を聞く前から以前より一緒に居たいとは思っていなかった。
その理由は神久和樹から明らかな異常性を感じていたからだ。
他人を見下したり、私の事を自分の物みたいに扱うようになったり、直ぐに怒るし、とてもじゃないけど一緒に居たい人とは思えなくなっていた。
そんな私が神久和樹と一緒に居たのは両親がギルドを作り神久にサポートをして貰っていた……この事実のみの為だった。
当時の両親曰く両親は神久和樹自身は私と仲良かった事もあり、まともな子で異常なのは親だけだと思っていたから、ホワイトギルドを作って神久家の奴隷を脱却を狙いつつ、私が神久和樹と友達で居れるようにしてくれていたらしい。
先ほども言った様に私が神久和樹と友達で居たくなくなったのは中学二年生位の事だったので、両親のその思いは全く不要だったのだがそんな事を知った時には既に手遅れだった。
私はそれを聞いて神久和樹と離れようって思いもしたが、それじゃあ何の解決にもならないし寧ろ厄介な事になると思ったので、私を心配して止める両親を振り切って私は、神久和樹と神久家の調査を秘密裏にする事にした。
神久和樹は正直に言って親の威を借りて威張っているだけで、頭は良くない。
そんな彼は私を常に近くに置こうとしていたので、調査をするのは意外にも簡単だった。
調査を進める度に私は思っていた。
良くこれだけの事をして隠し通せたなと。
まぁ、それが短期間で大企業まで登り詰められた要因でもあるんだろうけど、私は更に許せなくなっていた。
だがしかし、調査を始めてから時間が経ち高校三年生になっても次に進めなかった。
調査結果を自分たちが公表しても当然もみ消されるどころか神久家の恨みを買い酷い事になるのは目に見えている。
かと言って、調査結果を他に流そうとしても神久家の手がどこまで伸びているか分からないので迂闊な事は出来ない。
一説によると新聞社でさえ買収されてるとかどうとかって聞いた事もあった。
光龍ギルドのゼロの正体が同じ学校に通っている一年生だと騒がれ始めたのはそんな時だった。
私自身は凄い子がいるんだな……くらいにしか思っていなかったのだがそれを神久和樹が見逃すはずもなかった。
同じ学校で直ぐ手の届く所にSランク冒険者が居るんだ、絶対に手に入れてやる。神久和樹はそう思ったみたいだった。
私は神久和樹が自分の親と電話をしている所を偶然聞いたのだが、神久和樹が自分から親にその事実を話してどんな手を使ってでも手に入れようと言う結論になったらしい。
正直その時は相手が悪いんじゃ?とも思ったのだが勿論それを意見するつもりもなかった。
神久和樹の父親は確かに日本でもトップクラスの権力者だから光龍ギルドでも簡単に勝てる相手では無いのだろう。だから光龍ギルドが相手でも怯まないのだろうけど神久和樹の父親は私が神久家を潰せるくらいの情報を持っている事を知らない。
だから私は神久家を潰す為に新堂龍星に近づいた。
神久家に対して手の打ちようがない私からしたら思わぬ兆候だった。
私の持つ情報が有れば光龍ギルドレベルの組織だったら間違いなく勝てる。
しかも光龍ギルドは絶対的に神久家の手が回って居ないのも大きかった。
彼が私の提案に乗ってくれる保証はない。
勿論、神久和樹とずっと一緒にいる私を信用出来なくてもおかしな話ではないと思う。
私がそんな事を考えていたら連絡が来た。
スマホの画面に出て来た名前を見て私は驚いた。そこには新堂龍星と書いてあったからだ。
『えっとこんにちは瀬戸宮先輩。あの紙切れに書いてあった事について聞きたくて連絡をさせてもらいました』
私はそれに対して素早く返信をした。
『分かりました。では早速お伝えしても大丈夫でしょうか?』
『はい。後瀬戸宮先輩は先輩なんですからそんなにかしこまらなくても大丈夫ですからね』
『いえ。私はこれがデフォルトですので』
『そうですか。分かりました』
『取り敢えず最初に私と神久和樹について話しても良いでしょうか?』
『勿論大丈夫ですよ』
『分かりました。結論から言うと私と神久は幼馴染で神久は私を自分の物だと思ってるんですよ……例えば私の行動を管理しようとしたり、言う事を聞かないと両親が困る事になるぞとか……その、男女の関係を強要してこようとしたりとかですね。勿論最後のは未遂で終わってますけどね』
『それは一体なんでそうなってるんですか?』
『私が幼いころに両親が神久家に騙されて契約を結んだことがあってそのせいで私の家は神久家に逆らえない状態なんですよね……』
『なる程……』
この話を聞いて彼がどう思ったのかは分からない。
もしかしたら情けないとか思われたかも知れないが、今は可能性がある限りは正直に話さないと。
『それで両親が何とか打開しようとギルドをた立ち上げたんですけど、いざ自立出来たと思ったら神久に邪魔されて、有望なメンバーだけがが脅されたり引き抜かれたりして全然成長出来ないでいたんです』
『そんな訳で瀬戸宮家はほぼ神久家の奴隷みたいな立ち位置なんですよ。』
『それで俺に協力するって事なんですね?』
協力……確かにそうとも言えるけど実際には私の為でもあるんです……
『そういう事ですね』
『えっとそれじゃあ、瀬戸宮先輩は神久が再起不能になるって欲しいって事なんですよね』
『まぁ、そういう事になりますね』
『でも、それだったら潰せるくらいの証拠があるって事なんでしょうか?』
ここまで話した感じ、新堂龍星って人は頭も良いみたいですね。
『そうです。私はここ数年身近にいた事を活かして証拠を集め続けたんです』
『マジですか……』
『取り敢えず画像で送りますね……』
――私の送った資料などを見ているのか次に返信が来たのは数分後だった。
『これは流石にヤバいですね……』
『そうなのよ。だから私は私の家の事を置いておいたとしても絶対に神久を潰したいの……』
これは事実だ。
勿論私怨が大きいのも事実だが、それ以外にも酷い被害にあった人が多すぎる。
絶対に神久家は今の地位にいてはいけないはずだ。
もし新堂君や光龍ギルドが手を貸してくれれば……
私がそんな事を考えていると引き続き返信が来た。
『あの?瀬戸宮先輩って明日時間ありますか?学校も休みですし、出来れば俺の両親も交えて直接あって話したいんですけど』
『そうですね。私もその方が助かりますね。』
私はその言葉を聞いて柄にもなく飛び跳ねそうになったがそれを抑えて冷静に返信をした。
そしてそれと同時にあっさり私の事を信じてくれた新堂君に対して利用している事に酷く罪悪感を覚えた。
『分かりました。それではその感じで両親に伝えておきますね』
『はい……あとごめんなさいね……』
『え?何がですか?』
『だってこれじゃあ私が神久を潰したいがために光龍ギルドの力を借りるみたいなものですもの……どうしても私達だけじゃ太刀打ちできないですし……正直に言ったら今回神久和樹が新堂君に目を付けてラッキーっておもちゃったんですよ……これは利用できるって……』
これは言わなくても良かった事なので言うつもりはなかったのだが、私は長年の闘いが遂にとか、罪悪感とかでごちゃごちゃになりそんな事を言っていた。
『えっと。大丈夫です。俺も助かりますし神久の存在は俺自身も気に食わないですしね』
新堂君は特に何も考えずにそう言ったのかも知れないが、俺も気に食わないという文字を見て私はちょっと笑顔になっていた。
『そうですか……ありがとうございます』
『あ!でもさ、今のホワイトギルドって経営が上手く行ってないから神久ギルドに支援して貰ってるんって聞いたんですが大丈夫なんですか?』
確かにそれは割と有名な噂だけど、上手く行っていないのは全部神久ギルドのせいであって、私の贔屓目無しでも私の両親はギルド経営の才能はあるのでそこら辺は大丈夫だと思う。勿論事前に両親には話を通してあるしね……成功するかは分からないけどって。
『それは大丈夫ですよ。確かに最初は大変だと思いますけど、神久ギルドの妨害がなくなればいくらでもやりようはありますからね』
『そうなんですね。分かりました、それじゃあ改めて明日よろしくお願いします』
『はい。よろしくお願いします』
そうして新堂龍星君との連絡を終えた。
「信じてくれて良かった……」
私はそう思い胸をなでおろしたが直ぐに我に返った。
新堂龍星君は信じてくれたけど新堂龍星君の両親が信じてくれる保証なんてどこにもない。
私はそれをそんな事を思って再び気合を入れ直して明日に挑もうと思った。
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