3rd CHAPTER 居候

第10話 ダメ子

 真っ暗闇の中で、ステータス・ウィンドウの青い光だけが、カーテンにうつって揺れている。意味もなくステータス・ウィンドウを眺めている日々が最近は多くなった。


 どうやら俺の「初期値3桁」は凄いらしい。ダンジョン配信者の才能があるのだとか。そういう事はもうぶっちゃけどうでもいい。才能があっても宝物はもうないのだから。


「……どうしてこんな風になったのかな……お母ちゃん」


 尋ねてみても、帰って来るのは、外で家の前を横切る車の走行音だけ。俺ってもしかして疲れちゃったりしてんのかな。そんなわけないよね。何がどうして俺が疲れる必要なんかあるんだって感じだもんな。


「すいませーん!!」


 外から声がする。


「すいませーん!! 金目のものくださーい!!」

「押しかけ強盗だ……珍しいな……」


 ダンジョン配信用の装備を着込んで、玄関戸を開けて見ると、いきなりナイフが突き出された。


「刃物を人に向けるにゃ!」

「なんで効かないんだ!?」


 ナイフを突き出していた腕を掴んで、家の中に引きずり込む。


「ひー! 報復におかされるー! 男に犯されるのなんてイヤよ!」

「む! なんて言い草だ!」


 玄関の電灯をつける。やせ細った女だった。髪はボサボサで、服はきったねぇ。


「ホームレスにょ?」

「家がないだけでホームレス認定かよ。これだから男は……。ほら、アソコ貸してあげるから金を寄越しなさいよ」

「病気になりそうだから嫌だ。……てめえ様はあれか? 働き口がない感じか?」

「母親がうんちだったから戸籍がない感じよ」

「ありゃりゃ。働けない感じか」

「こうやって生きていくしかない感じね」


 困ったもんだ。

 一文字組に掛け合ったらそこら辺なんとかできるだろうか。大人になってから戸籍って作れんの?


 まぁ……そこら辺はなんとかなるか。


「とりあえず金目のもの奪っていいから、今日は俺の部屋で寝泊まりしとけ……顔写真撮るよー……」

「ひぇ……売られる……」

「うるさい」


 一文字組の人たちに送信っと。



 PINEグループ

  一文字組の人たち


【おれ】

[女の顔をうつした写真]


【田島】

 誰このこ


【山田】

 そういう趣味?


【岡村】

 ヒェッ……


【熊谷】

 滝くんがそんな人だったなんて


【おれ】

 違います。いま家に強盗に来た女なんですけど、戸籍がないって言うから、とりあえず明日戸籍作りたいんですけど、今晩のうちに逃げるかもしれないから、とりあえず見つけたら確保しておいてほしい感じです。警察にも連絡しておいてください


【鈴木】

 強盗に来た女を家に泊めるんだ


【おれ】

 住む家がないっていうから


【田島】

 オヤジにも伝えとくね


【おれ】

 そろそろおやじさんグループに誘ってやれよ



 これでよし。


「冷蔵庫にコンビニ弁当あるからチンして食っていいよん」

「シャオラァッ! 私あんたの嫁になるわ」

「きちーって」


 ドタドタと女が台所に向かっていく。


 しばらくして、チン、と言う音がした。電気を付けると、女が割り箸をパチンと割っているところだった。


「うわ、明るくなって初めてわかる部屋の汚さ。あんた荒んだ生活してるわね〜。もしかしてそれなりに貧困?」

「7億の借金がある」

「………? ななおく?」

「7億の借金がある」

「7億の!? 借金がある!? どっ、どどっ、どうしたお前!? 金目のもの盗んじゃいけないお宅じゃねーか!! 何やってんだお前!? 冷蔵庫の中だけじゃなく頭まで空っぽなんか!?」

「どうしてそこまで言われなくちゃいけないんだ」


 女はコンビニ弁当を食い終わると、水道をひねる。


「の、割には水は出るし電気はつくのね。ガスは?」

「つく」

「なんで?」

「どえらい物好きな任侠野郎どもがいてね……。それはともかく、てめえ様の名前を教えてけろけろ」

「私の名前? なんだったかしらね」

「あ?」


 女は言いづらそうにしてから、「そうだ」と指を立てた。その指を、こちらに向ける。


「あんたがつけていいわよ。今晩だけの関係だから何でもいいわよ」

「なんでも?」

「ええ」

「んー……じゃあ……つ……」

「つ?」

「いや、なんでもない。アホ子。お前はアホ子だ」

「ぶっ殺すわよ」

「じゃあなんだと良いにょ。文句ばかり言いやがって……人間の屑がこの野郎……先に満たすべきはお腹じゃなく頭では?」

「なんだお前……7億の借金がある世界一のバカに何言われてもノーダメよ」

「じゃあダメ子。よろしくなダメ子」

「アホよりは……いい、のかなぁ……!?」


 アホより良いわけないだろ。

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