第3話 解体
土曜日。
原チャリに乗ってダンジョンギルドまで向かう。岩手県
地区外に遠征したらその地区のギルドを利用するけど。その場合「当該ギルドで報酬の受け取りをするか、あるいは所属地区のギルドか」みたいなのを決めることができる。
「おっ」
風車だ。
「いいね」
胆江地区ギルドに入ると、清水さんが風車を持って神妙な面持ちをしていた。グレーのコートは夏とは思えなかった。
「どうしたんすか、その風車」
「キャンペーンらしい。新しい魔導具らしい」
「ほーん」
清水さんにその風車を貰ったので、説明を見てみると、廻れば廻るほど所持者の運が良くなっていくらしい。何%?……と思わなくもないが、とりあえず俺はこういうラッキーアイテムが好きだから、胸ポケットにさしておく。
「んで、今日の解体は?」
「ゴブリンだ。8体。報酬は出来次第でギルドから上乗せされる」
「いっすね! 腕鳴りまくり!」
お察しの通りって感じだね。
「とりあえず内臓と魔石が揃えばいいから、適当にバラしてくれ、とさ」
「りょ!」
解体室に入って、仕事道具をバックパックから取り出す。振動するナイフ、ノコギリ、ハンマーやらピンセット、ゴム手袋、防酸ジャケット。
「じゃ、始めるんで出てってください!」
このゴブリンを倒したのは一体誰だろう? とても手際が良く……とても優しいひと突きで確実に魔石を破壊して殺してる。魔石の位置を確実に把握していないと出来ない手法だ。そんな事が出来るのはよほどダンジョンに潜ってきた配信者なんだろうな、と思う。きっとスパチャだけで100万とか稼いでんぜ? 羨ましいよな。
こんな田舎にそんな奴いるか?
……申し訳ないが、腕の立つ配信者っていうのは大抵東京に行くんだ。東京か、大阪。京都。……まぁ、それなりに人口のあるところ。岩手は面積だけで言えば北海道に次いでデカいが、北海道と似て人が少ない。
配信者の事情は深くは知らないが……この実力なら東京の方がうまく行くと思うんだがね。家族でもいるんだろうか。
ちなみに解体についての知見をひとつ。人型を解体する際に、「再接続」しやすいように綺麗な切り口を多くしておくとギルドはとても喜んでくれる。モンスターの内臓なんて何に使っているのか分からないね。陰謀論的な感じで行くと人間に移植してんだろうけど、まぁ普通に考えりゃ医療かな。お医者さんの卵が最近は人型モンスターの身体を使うらしい。ゾンビとかのアンデッド系のモンスターとかね。あれ完全に人だから。
「……っと! 完了」
やったぜ。所要時間2時間足らずで8体のゴブリンを解体だァ!
「終わったか?」
「ウッス! 終わったっす! こっちが魔石で〜、こっちが消化器系で〜こっちが呼吸器系で、内分泌器系はこっち、生殖器系はこれで、泌尿器系はこれ! 一応1体1体、運動器系・消化器系・感覚器系って感じで分けていたんで、使いたいように使いやさい」
「相変わらず仕事が早くて丁寧だな……かつての日本職人みてぇだ」
「そりゃもう。解体のプロですから!」
早くて安くて安心ねって感じ?
安くはねぇか。
清水さんはなんか俺のお仕事ぶりを買ってくれてるらしくて、俺を安値で使おうとするゲスには睨み効かせてくれてるらしい。さすが一文字組の男! ダンジョン革命を生き抜いたヤクザには華があるぜ。普通のヤクザはうんちだけどね。わら。
「相変わらずすげぇな……」
「人の解体もやれますよ。ゾンビとかも最近は慣れたんで。一文字組で使ってくださいっす」
「バカ言うな。『人は殺さず』がうちのモットーだ」
「ふふふ」
一文字組だいすき!!
ちなみに債務者には厳しいらしい。ダチの兄貴が900万借りた時めちゃくちゃ漁に出たとか。んで、なんか天職だったらしくていま東日本最強の漁師目指してるらしい。一文字組ってなんかヤクザっぽくねぇよなぁ? お前らほんとにヤクザか……? 俺が前まで知ってたヤクザって何回ボコってもしつこく迫って翼を風俗堕ちさせようとしてくるクズばっかだったぜ?
「任侠のプロって感じだ」
「なんだそりゃ。……寿司食いに行くか?」
「妹呼んでいいっすか?」
「おう。呼べ呼べ」
「やったー!!」
「喜びすぎだ。……シャワー浴びろよ」
「あっ! ウッス!」
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