第51話 遠坂結衣と高堂空

★高堂空(side)


(キーンコーンカーンコーン)


「はぁ、やっと終わったなー」

「だな。やっぱり英語の授業ってきついな」

「マジでなー全然理解できないから眠くなるんだよなー」


 三時間目の授業が終わり俺は哉太とそんな事を話していた。


「でも英語ができれば将来的に得するかもよ?」

「それはそうだけどなー俺は別に英語が必要な職に就く気もないしな」

「俺も哉太と同じかな。マジで英語だけは勉強する気が起きないんだよなー」


 近くの席にいた美月が言った事に俺と哉太が反応していた時だった。


「あれ?どうしたんだろうな?」

「どうした哉太?」

「ほら。結衣さんだよ結衣さん」


 哉太が指をさした先を俺は見た。


 そこには結衣が神道に肩を貸してべったりとくっついていた。

 結衣は前に神道とはただの友達と言っていたがそれなのに流石にくっつきすぎだ。

 俺はそれを見て無性にイライラして呟いていた。

 

「くっつきすだろあれは……」


 するとその後に美月が言った。


「で、でも体調が悪そうだしそれでじゃないかな……」

「確かにそういわれてみたら神道凄くつらそうな顔してんな。それで結衣さんが保健室に連れて行こうとしてるんじゃないか?」


 確かに神道は辛そうな顔をしている……だけどそんな事は関係ない。

 たとえそうだとしてもただの友達だとしても二人は異性だ!なのにあれはくっつきすぎだ。

 大体そんな事を結衣がする意味がないし他の男子にでも任せておけばいいじゃないか……体調が悪いとしても大げさすぎるだろ、自分で歩けよ……


 俺がそんな事を思っていたら結衣は神道を連れて教室から出て行った。


「そんなのなんで結衣がするんだよ?大体男子に頼めばよくないか?」

「さぁ、でも神道と仲良い男子っていないしな……」

「ゆ、結衣ちゃんは席の隣だし心配だったんじゃないかな……結衣ちゃんって優しいし……」

「まぁ、それもそうだよな。くっつきすぎと言っても非常事態っぽかったしそんな気にする事でもないんじゃないか?」


 気にする事でもない訳ないだろ……

 肩を貸しているせいで二人の顔も滅茶苦茶近かったし……大体結衣があんなに心配そうな顔をしていたし……


 いや。でも前にただの友達って結衣が言ってたしな。

 

 俺はそう思いつつもモヤモヤしていたので結衣が帰ってきたら聞こうと思ったが、結衣が帰って来たのが四時間目の授業開始ギリギリでそんな時間はなかった。



 ――チャイムが鳴り四時間目の授業が終わり昼休みの時間になった。


 その瞬間おれはすぐに結衣のもとに行った。


「結衣」

「ん?どうしたの空?」

「ちょっと話したいだけど良いか?」

「えっと……今じゃないとだめ?」


 俺がそう言うと結衣は首をかしげてそう聞いてきた。


「そう言うわけではないけど出来れば今が良いかな……」

「ごめんね。昼休みはちょっと行かないといけない場所があってね」


 結衣は申し訳なさそうにそう言ってきた。


「それってどこだ?」

「ううん。空が気にする事じゃないから大丈夫だよ。また時間作るからさまた今度話そう!」

「じゃ、じゃあこれだけは知りたいんだけど!」

「これって何?」

「さっきの神道の事……」

「あー、慶君だったら授業中から体調が悪そうだったら放っておけなくて連れて行ったんだよ。見過ごせるわけもないしね」

「そ、そうなんだな。優しいな結衣は」

「ありがとう!もう行っても大丈夫?」


 俺に向けて笑顔でそう言う結衣の様子を見ても別にいつも通りだし変わったところもなかったので俺は考えすぎなのかなと思った。

 行かないと行けない場所が気になるけどまぁ良いか。

 

「そうか分かった」

「うん。ありがとうじゃあ行くね」

「うん」


 そう言って結衣は教室から出て行った。


 俺が席に戻ると哉太しかいなかった。


「あれ?美月さんは?」

「美月だったらなんか結衣さんが何とかって言って追っていったぞ?」

「何とかってなんだよ?」

「さあな。でも大丈夫だろ。慌ててるとかじゃなかったしな。それより空!今日の夜さ……」


 それから俺は哉太と夜にゲームをする約束をしたりして昼ご飯を食べていて楽しかったのでモヤモヤは薄れていた。



★遠坂結衣(side)


――私は久しぶりに空と一緒に帰っていた。


 最近は慶君の事があり二人で帰る事はしていなかったが昼休みから話したい事があると言われ今度時間を作ると言ってしまったので一緒に帰っている。

 

 慶君も先に帰った事だし私は先に話を伸ばすより今のうちに終わらせた方が良いと思ったからだ。


「それで話って何?」

「えっと……あんな事を結衣がする必要ないんじゃないか?」

「あんな事って?」

「いやだからさ……神道の事だよ」


 慶君の事って保健室まで送った事かな?


「保健室まで送った事?」

「そうそう。いちいち結衣がしないでも他の男子に頼めばいいだろ?重いだろうしさ」

「別に重くはなかったよ?慶君も足に力が入ってなかったわけではないからね。それに他の男子って誰に?」


 慶君は男子の友達がいない。

 これは悪い意味で言っているわけではなくてそれだから頼める人がいないって意味だ。

 大体他の男子に任せるくらいだったら私がしたいしね。


「それはだれでも良いんじゃない?誰かしら手伝ってくれるだろ?」

「それじゃあ空に言ったら手伝ってくれたの?」

「そ、それは……」


 空が慶君に対して良く思っていない事は知っているので当然嫌そうな顔になった。


「そうだよね?慶君は体調が悪いっていうのに誰かに頼む時間があったら私が送っていった方がいいでしょ?空みたいな反応する人が居るだろうしさ」


 私がそう言うと空はバツが悪そうな顔になりながらも言ってきた。


「そ、そうだな……でもあれはくっつきすぎじゃないか?異性なんだぞ?」

「体調が悪いんだからあれくらいしかたないでしょ?別に私も嫌とか思ってないしそれは空が心配する事じゃないよ?」

「嫌じゃないって……まぁ、いいや。でもなんで結衣はアイツとそんなに仲良くなったんだ?」


 空は明らかに不服そうにそう言ってきた。


「理由なんてないけど?友達ができるときなんて自然とできるでしょ?」

「でも距離が近いだろ?異性じゃん?」

「それを言ったら空もそうじゃない?私や明香里ちゃんと距離近いでしょ?」

「それは結衣は幼馴染だし明香里に至っては義妹だぞ?」

「じゃあ美月は?」

「美月は……」


 慶君を好きになってからは私たち三人は空にボディータッチをする事はなくなっていたが、それまでは軽く背中を叩いたりと距離が近い事があったはずだ。

 

「でしょ?空と美月は友達だよね?」

「そ……そうだな……でも気を付けろよ?あいつも男なんだからな?」

「え?慶君が男なんて事は当然知ってるけど?」

「そうじゃなくてさ……男だから結衣にたいしてエロい事を考えてるかも知れないだろって事だよ!大体アイツっていっつもだるそうな顔してるし何考えてるか分かったもんじゃないしな」


 そんな事を堂々と言うんだね……

 大体慶君がエロい事を考えていても私は嬉しいだけだし空には全く関係ないのにな……むしろ私からしたらそっちの方が嬉しい……じゃなくて!


 だるそうな顔とか知らないけど、何言ってるんだろう?

 何考えてるか分かんないとかじゃなくて空の場合は分かろうとしていないだけでしょ?

 慶君は空に対して何も言わないのに一方的に敵視してるじゃん……


 私はそう思って空に対して呆れていた。


 慶君と付き合っているって言っちゃいたいけど間違いなくこじれるだろう……

 そんな事は今は避けたいし何より私が勝手に言うわけにも行かない。

 

 だって慶君と美月と明香里ちゃんの事もあるんだからね。

 今の三人には付き合う事だけに向き合ってもらいたい。

 私が勝手に言っちゃって余計な事に意識を使わせたら純粋に関係を進めなくなるだろう。

 

 空や哉太君に今明かすか後で明かすかどっちが良いのかは私には分からない……けど今の私はそう思っている。


 慶君にはばれても良いと言ったけど、そんな訳で私は相談なしで私から付き合っているとばらす気はない。


「考えすぎでしょ?」

「いや。でも男はな……」

「じゃあ空は女子と話すときいっつもそんな事を考えてるって事?」

「んなわけないだろ!」

「でしょ?だからこの話はおしまいね」

「あ、あぁ」

 

 全てを明かしたときにただの幼馴染として、友達としてそのままの関係でいられるのかは分からない。

 でも私はもう慶君を最優先で行くって決めてる……その結果で空と距離が空こうと変える気は全くない。

 幼馴染と言ってもただ長く一緒に居ただけで恋人を優先するのは当たり前だ。

 

 だって私はもう慶君から離れる気なんて一生ないからね。

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