第50話 早退

「神道君!」


 俺は誰かに名前を呼ばれて目覚めた。


 目を覚まして声の主が誰かを確認すると保健室の獅子堂先生だった。


 俺は視線を時計に移して時刻を確認すると昼休みが終わる直前。

 

 結構長い時間寝ていただけあってさっきよりは間違いなく楽になったが、それでもまだ具合悪い感じだ。


「どうも……獅子堂先生」

「えっと……さっき女の子に聞いたんだけど神道君であってるよね?」

「はい。神道慶です」


 俺と獅子堂先生は話すのが初めてなので俺はそう言った。


「具合はどう?」

「そうですね……寝る前よりはかなり良くなってますけどまだ気持ち悪いですかね」

「それじゃあ取り敢えず熱を測ってもらっていい?」


 獅子堂先生はそう言って俺に体温計を渡してきた。


「分かりました」


 体温計で熱を測ると37.6度だった。


 だいぶん下がったな。

 これだったら微熱くらいかな?


「37.6度ね。これじゃあ今日は授業は無理そうね」

「はい。そうですね」

「それじゃあ今日は家で休んだ方がいいけど……神道君のお父さんやお母さんは迎えに来れる?」

「えっと……」


 父さんは考えるまでもなく当然無理だとしてお母さんはどうだろうか……

 そういえば今日で仕事が終わるって言ってたから忙しいだろうな。

 時間も時間だしな……

 

 まぁでも、今の体調なら家まで歩いて帰るくらいはできるだろう。

 場合によってはタクシーでも呼べばいいしな……その必要はないだろうけどな。


 俺がそんな事を考えていると獅子堂先生が言った。


「その感じだと難しそうなのね」

「そうですね……」

「分かったわ。それじゃあ私が家まで送っていくから帰る支度してね。私は神道君の教室からカバンを持ってくるから」

「え?良いんですか?」

「大丈夫よ。こんな事は別に初めてじゃないしね。それに私は生徒が最優先だから」


 獅子堂先生は凄く優しい表情でそう言っていた。


 凄く良い先生なんだな……俺は素直にそう思った。


 その後俺は獅子堂先生に持って帰るものを伝えて教室からとってきてもらい家まで送ってもらった。



 ――俺は獅子堂先生に家まで送る届けてもらった。


「ありがとうございました。獅子堂先生」

「大丈夫よ。それよりちゃんと休むのよ?」

「はいわかりました」

「あと一応伝えておくけど昼休みに神道君が寝ている時に遠坂さんっていう女の子が三人で心配で見に来たって言ってたわよ」


 三人って事は結衣と美月と明香里かな。

 三人とも来てくれたんだな。


「そうなんですね。わかりました」

「それじゃあ私は学校に戻るわね」

「はい」


 そう言って獅子堂先生は学校に戻っていったので俺は家に入った。


 ――それから俺はすぐに部屋にいき着替えてからベッドに寝転んだ。


「はぁー、そういえば結衣たちに一言連絡しておかないとな」


 獅子堂先生が教室に行ったのでもしかしたら俺が帰るんだってわかってるかも知れないけど一応ね。

 時間的には授業中だから返信は来ないだろうから一言だけ送って寝よう。

 昼休み中に三人が来てくれたって獅子堂先生が結衣に聞いたって言ってたしな。


 そうして俺はグループチャットを開いて送った。


『獅子堂先生に家まで送って貰って先に帰ったから心配しなくて大丈夫だぞ』


 俺はそれだけ送ってから持ってきた風邪薬を飲んでから再び眠りについた。



 ――それから数時間後、俺は目が覚めた。


「ふわぁー」


 目を覚まして外を見ると既に結構暗くなっていた。


 時計を見ると時刻は19時過ぎだった。


「滅茶苦茶寝たな……」


 でもそのおかげか体調はすっかり良くなっている。

 

 気持ち悪くもないし少し痛かった頭痛もなくなっている。


 そう思いつつも部屋に置いてあった体温計を使い体温を測った。


「36.8度か。これならもう大丈夫そうだな」


 明日からも問題なく登校出来そうだ。

 本当に大した事なくてよかったわ。


「そういえば母さんはまだ帰ってきてないのかな?」


 俺はそう思って自分の部屋から出た。


 リビングルームにもいなかったので玄関に行くと靴がなかったのでまだ帰ってきてないのだろう。


「まぁ、今日が最終日って言ってたし……忙しいんだろうな」


 俺は余りお腹もすいて居なかったのでパンを二つだけ持って自分の部屋に戻った。


 部屋に戻って俺はスマホを手に取った。


 スマホにはいくつかの連絡が来ていて母さんからも来ていた。


『慶。ごめんね今日は帰りが遅くなりそうだら一人で夜ご飯食べちゃてね。明日お別れなのにごめんね』


 俺はそれを見て『分かった。頑張ってね』それだけ送っておいた。

 仕事中だし文章は短い方がいいよな。


 それにしても母さんは良く仕事関係の事で忙しくなると俺に謝る傾向にあるけどそんな事する必要ないんだけどな。

 頑張ってくれてるなんて考えるまでもなく分かるから俺から出る言葉はありがとうしか無いわけだしな。

 まぁ、親に愛されてるって伝わって来るからそこは素直に嬉しいんだけどさ。

 

「そういえば四人のグループチャットも動いてるな」


 他の通知を確認すると結衣と美月と明香里と俺の四人のグループチャットも動いていた。

 早速俺は内容を確認することにした。


『獅子堂先生に送って貰って先に帰ったから心配しなくて大丈夫だぞ』

『そうなんだね。ちゃんと休んでね慶君!』

『早く元気になってね慶!』

『体調にお気を付けください。神道先輩』


 なんか明香里だけ凄い丁寧な言葉遣いな気がするが……

 まぁ、いつも敬語だしそんなに変わらないのかな?

 取り敢えず皆に心配かけたみたいだしちゃんと返信しないとな。


『取り敢えず今起きたけど熱も36.8度だったし体調も回復したから明日からも問題なく登校できそうだから大丈夫だぞ。心配してくれてありがとう』

 

 俺がそう送ると一瞬で既読が3ついて返信が来た。


『良かった!なんともなくてよかったよ慶君!』

『ほんとうだね。元気になってよかった』

『元気になったんですね。良かったです』

『そういえば三人とも昼休み来てくれたんだってな。それもありがとうな』

『ううん。そんなの当たり前だよ!心配だったもん!』

『そうだね。私も結衣ちゃんと同じだよ』


 結衣と美月はすぐに返信が来たけど明香里の返信はちょっと遅かった。


『私も心配でしたし当然ですよ』

『そうそう。慶君が明日も登校してくれれば私たちも嬉しいからね』

『だね。明後日からは土日なので学校もないしね』

『そ、そうですね。神道先輩と私も沢山会いたいですし……』


 三人とも本当に心配してくれていたことが伝わってきて俺も嬉しくなっていた。

 結衣と付き合い始めてこれからだって時に体調を崩してどうなるんだと思ったけどマジでなんともなくてよかったな。


『そうだな。また明日学校でな』


 その後も少しだけ会話が続いたが他愛のない会話で楽しんでいた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る