第38話 美月とバイトで急接近
「こんにちは笹沢さん!」
「おばあちゃん!こんにちは」
俺と美月は書店に着いたので笹沢さんに挨拶をした。
「あらこんにちは、今日は二人で来たんだね。二人って仲が良いんだね。もしかして付き合ってたりするのかい?」
二人で来た俺達に笹沢さんはにっこりしてそう言った。
笹沢さんは揶揄っている様子でもなく微笑ましそうにしていた。
「そうですね美月さんとは仲良くさせていただいてますが、付き合っている訳ではありませんよ。今日は同じ学校ですので一緒に来ました」
「そ、そうだよ!おばあちゃん!……そ、それより早く準備しないとだよ、ほら行くよ慶!」
俺はそう返事をするが美月は恥ずかしそうにそう言った。
身内に言われたのが余程恥ずかしかったのだろう。
その後美月は「おばあちゃん準備してくるね」と言って俺の手を引っ張り動き出した。
俺は笹沢さんに会釈をして美月について行った。
その間笹沢さんはずっと笑顔だった。
◇
「慶……ごめんね……おばあちゃんが変な事を言っちゃって」
「いや大丈夫だぞ」
「おばあちゃんったら昔からああいう事を平気で言っちゃうからだから……哉太の時もそうだったしね」
「そうなんだな。でも本当に美月が大切って思ってるのは感じるし良いおばあちゃんだな」
俺がそう言うと美月は凄く穏やかな表情になって言った。
「うん。そうなんだよね……私が小さい頃からずっと可愛がってくれてましたし、本当に大好きなおばあちゃんなんだ……勿論おじいちゃんもだけどね」
「そっか。なら美月も大切にしないとな、おばあちゃんとおじいちゃんをな」
「それは当然だよ。それで慶?準備は出来た?」
「あぁ、出来たからいつでも大丈夫だ」
「それじゃあ、とりあえず一緒に倉庫まで行こう。いくつか足さないといけない本があるらしいから」
「何か教えてくれれば俺がやっておくぞ?美月はレジだしそれは担当じゃないだろ?」
「まぁ、そうだけど今はお客さんも少ない時間帯だし大丈夫だよ。それにそんなに時間もかからないしね」
「それもそうか。じゃあ行こうか」
「うん」
――そうして俺と美月は本の在庫がある倉庫まで一緒に来た。
「えっと、これとそれと……後アレだね」
俺は美月が言った本を段ボールごと移動させて合っているかどうかを確認をする。
「よし!それじゃあ確認も終わったし運ぼうか!」
「うんそうだね!」
そう言って美月は段ボールを一つ丸ごと運ぼうとした。
美月でも持てない事もないがかなり重いと思う、それに体育テストでの美月はなかなか酷かったしな。
握力も体力も女子の平均より明らかに低かったのだ。
まぁ、自分でも運動音痴って言ってたからな……そんな訳でちょっと心配だ。
「美月?重いから俺が運ぶぞ?」
「ううん。それじゃあ私が来た意味ないでしょ?私はこれだけ運ぶからさ、慶は残りを運んでね」
美月はそう言って段ボールを持ち上げた。
「ほらね。大丈夫でしょ?」
ドヤ顔でそう言って美月が歩き出したのが……
美月の足の先には他の段ボールがあったのだが美月は下が見れて無いので気付いて居ない。
「美月!……」
教えようと思ったのがその前に美月はその段ボールに足を引っかけてしまった。
美月はそのまま持っていた段ボールを下に落として勢いよく俺の方に突っ込んできた。
俺はそんな美月を受け止めようとしたが急すぎてちゃんとした形で受け止める事が出来ずに美月の下敷きになった。
俺が目を開けると美月の顔が目の前にあった。
それこそ美月の息が当たる位……少し動けば唇が触れ合いそうな位近くに……
美月は目を開けると同時に勢いよく起き上がり俺から離れた。
時間としては一瞬だったが俺はかなりドキドキした。
「……ご、ご、ごめんなさい……」
美月は慌てて俺に背を向けて座り込んでそう言った。
「えっと……大丈夫だぞ……それよりケガはなかったか?」
俺がそう言うと美月はもの凄く小さい声で「うん……」と言って頷いた。
「そっか。美月にケガが無くて良かったよ」
俺はまだ少しドキドキしているが冷静にそう言った。
美月は無言だがバイト中と言う事もあり俺は続けて言った。
「えっと。じゃあ、俺が全部運ぶけど大丈夫だよな?」
「は、はい……」
そうして俺達は少し気まずい感じで歩き出した。
美月は俺に顔を見せない様にしてるのか俺の後ろを歩いている。
倉庫を出る際一瞬見えた気がするが美月の顔は湯気が出そうな位真っ赤だった……
まぁ俺も美月程じゃないが人の事言えないかもだけどな……
◇
――その後はお互いに自分の仕事についたのだが、忙しくなったって事もあって一度も話す事なくバイトを終える時間になった。
「じゃあ、帰るか」
「はい……」
そう言って俺と美月は書店を出たのだがまだ美月は少し気まずい感じだ。
このままでは明日以降にも響きそうなので俺がどうにかした方が良いよな。
「美月、今日の倉庫の事なんだけどさ……事故とはいえごめんな」
「う……ううん。謝らなくて大丈夫です……私のせいだし……それにわ、私は嫌じゃなかったから……」
美月はそう小さい声で言った。
「そっか……それで本当にけがは無かったのか?足を挫いたりとかさ?」
「そうれは大丈夫……です……慶が受け止めてくれたから……」
「ほんとか?だったら良かったよ」
俺がそう言うと少し間が空けてから美月は言った。
「うん。助けてくれてありがとう」
「あぁ」
少し会話をしたからか、そう言う美月は先程より余裕がありそうだった。
その後もちょくちょく話して美月は大分元通りになっていた。
◇
――美月の家の前に着いたのでお別れする事になった。
「それじゃあ、また明日な」
「うん。今日はありがとう。また明日ね」
「あぁ、じゃあな」
俺がそう言って去ろうとすると美月に呼び止められた。
「慶!」
「どうした美月?」
俺が美月の顔をみると美月は頬を赤らめてはいるが真剣な表情だった。
「その……慶はどう思った?」
どう思った……美月の表情からしてあの事で間違いないだろう。
俺は思った事を正直に伝える事にした。
「どうって、凄くドキドキしたよ」
「ほんとに……」
俺がそう言うと美月はちょっと嬉しそうかつ恥ずかしそうにそう言った。
「うん。ほんとだよ。美月の顔があんだけ近くにあったんだから当然だよ」
「そ、そっか……そうなんだね。良かった……慶もそうなんだ……」
そう小さい声で言う美月は凄く嬉しそうに微笑んでいた。
美月は少し間を空けてから俺に笑顔を向けながら続けて言った。
「それじゃあ慶!また明日!バイバイ!」
「うん。バイバイ」
そんな感じで俺は家に帰った。
◇
――俺は家のベッドで考えていた。
「美月ホントに可愛かったな……」
今日の美月は最初から最後まで本当に可愛いと思った……まぁ、可愛いのはいつもそうだが今日は更にそう思った。
勿論見た目もそうだが、性格も凄く良い子で可愛い……
「でも気まずいままで終わらないで良かったな」
美月とお別れした時には気まずさはほとんど無くなっていた。
それは美月を見ても明らかだったしね。
ていうか寧ろ気まずいどころかより俺と美月の距離が縮まったとも思えた。
物理的に接近した訳だが、どこか心の距離も縮まった感じがした。
「よし!今日はもう寝て明日からも頑張ろうか」
そう思い俺は電気を消した。
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