第37話 放課後に美月とバイトに向かう

 ――俺は放課後になりバイトの為バイト先に向かおうと下駄箱に来た。


「まだバイトまでちょっと時間もあるしゆっくりと行くか」


 スマホで時間を確認した俺はそう呟いた。

 俺はここ最近は結衣と一緒に帰ることが多かったが今日は明香里たちと帰るらしい。

 高堂と結衣が仲直りしたばっかりだし皆で帰ろうって高堂と酒井に言われたとの事だった。

 

 そんな訳で俺は一人でバイトに向かう事にした。


「ちょっと待って!慶!」


 俺が靴を履き替えて外に出ようとしたら後ろから声をかけられた。

 聞こえて来る声からして美月だろう。

 俺は振り返って美月に返事をした。


「どうかしたか美月?」

「えっと、慶ってこれからおばあちゃんの所でバイトだよね?」

「そうだぞ、今日はシフトが入ってるからな」

「そうだよね!実は私も今日バイトだからさ、一緒に行こ?」


 美月は笑顔でそう言って来た。

 他の人のシフトは確認していなかったがそうなのか。


「そうだったのか?」

「うん!実はそうなんだよね」

「でも良いのか?結衣が今日は高堂と仲直りしたばっかりだし皆で一緒に帰ることになったって言ってたけど?」

「大丈夫だよ。空君と哉太にはバイトって言って先に帰るって言ったからね。それにどうせ一緒に帰っても直ぐ違う道になるしね」


 確かに美月はバイトがある日でも前まで皆と一緒に帰っていたのだろうけど、酒井は分からないが高堂の家の場所を考えると途中で別れないと反対方向になるもんな。


「まぁ、確かにそうかもな」

「うん。それに結衣ちゃんと明香里ちゃんに慶と一緒にバイト行くって言ったら頑張ってって応援してくれたしね!今日は私の番だねって」


 美月は満面の笑みでそう言うが、私の番って何だ?

 まぁ、話の内容的にバイトがって事か。


「美月、それじゃあ一緒に行こっか」

「うん!行こう!」


 ――そんな訳で俺は美月と一緒に帰っているのだが……


 滅茶苦茶距離感が近い……右手を少しでも横に動かすと手と手が触れ合う距離感だ。


 それに会話も無いし美月は俯き気味な上に心なしか顔が赤く見える。


「あのね慶?」


 そんな事を思っていたら美月がゆっくりとそう言った。


「なんだ?」

「手……手を繋いでも良い?」


 美月は恥ずかしそうに恐る恐る聞いて来た。

 俺はそんな美月の言葉を聞いて思わずドキッとしていた。

 

 美月の顔を見ると凄く真っ赤で恥ずかしそうだ。

 恐らく……いや確実に勇気を出して言ってくれたんだろう。

 美月の性格から考えてもそうなんだと思う……


 そう思った俺は美月の手を見て何も言わずに美月の手を握った。


 距離感が近くなるとドキドキする……美月もそうだしそれは結衣も明香里の一緒だ。

 母さんはゆっくり決めれば良いって言ったけど本当に大丈夫だろうか……

 ゲームではハーレムエンドがあったが一夫多妻制でも無い訳だしな。

 しかも俺が自覚してからは一緒に居れば居るほど三人に惹かれていく感じがずるし……


 俺はそんな事を考えながらもふと美月の方を見るとびっくりする位美月の顔が真っ赤だった。

 俺はそれを見てつい頬が緩んだ。

 初心な美月からしたらそれ位の事なのだろう。

 俺相手にそうなってくれるのは本当に嬉しい。


「美月?大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」

「は、はい……大丈夫です!」


 俺のそんな問いに美月はたどたどしくそう言った。

 そう言えばこんな感じの美月は前にも見たな……美月って緊張すると敬語になるのかな?

 そんな美月を見て俺は改めて可愛いなと思った。


「その……慶はこういうの慣れてるんですか?」


 前世の俺は告白こそされた事は無いが女性経験がなかった訳ではない。

 自分から告白して付き合った人も居た訳で童貞って訳でもないが慣れているとは言い切れない……現に美月と手を繋いでドキドキしたのは間違いないしな。

 まぁ、でもそう言った経験がない人よりは慣れているのは確かかもな。


「美月からはそう見える?」

「だって……慶が私と手を繋いでも余りにも普通だから……」

「そうでもないよ。俺もさっきまで凄くドキドキしてたけど、それ以上に美月が顔をリンゴみたいに真っ赤にしていたのを見て俺の緊張がほぐれたんだよ」


 俺が冗談交じりそう言うと美月はあからさまに動揺して言った。


「わ、わたしってそんなに顔赤いんですか!?」

「うん。赤いよ」

「うぅ……」


 ――それから少しの間美月は恥ずかしそうにしていたが暫くしてぽつんと言った。


「でも良かった……慶もドキドキしてくれたんだね」

「それはそうだな。美月みたいな美少女と手を繋げば誰だってそうなるさ」

「び……美少女」

「そうだぞ?美月は誰が見ても滅茶苦茶可愛いって言うぞ?」


 俺がそう言ったら美月は恥ずかしかったのか慌てて話を変えてきた。


「あ、ありがとう……そ、そうだ!可愛いと言えば慶のお母さんって凄い美人なんだね!私びっくりしたよ!明香里ちゃんも凄い驚いてたしね」

「母さんか……まぁ、確かにれは否定出来ないな。息子の俺からしても若く見えるし美人ではあるな。一緒に居ると姉って思われる事もあったしな」

「やっぱりそうだよね……それで慶のお母さんってどんな人なの?」

「んー、そうだな……端的に言うとオフの時は若々しく元気だけど、仕事中は超真面目で優秀な人かな?オフの時は身内だけの空間だと特にね。まぁ、公私がしっかりしている人だね」

「そうなんだね。でもちょっとイメージ沸くかも……だって慶君もお母さんと一緒に居る時凄く楽しそうだったしね。あの時の慶って凄く素敵な笑顔だったからね」


 美月は先程まで顔を真っ赤にしたとは思えない位微笑ましそうにそう言って来た。

 でもそんなになのかな?正直自分では分からない。

 確かに母さんと話すのは楽しいし安心感があるけどそれを美月と結衣と明香里に見られてたと思うとちょっと恥ずかしいかもな。


「そんなにだったか?」

「そんだにだったよ?」

「そうなのか……それはちょっと恥ずかしいな」

「ふふふ、恥ずかしがる事ないよ。母親と仲良しなんて素敵じゃない?」


 そう言われるとそうだな……

 前世の俺には母親どころか父親も居なかったから今の俺は尚更深くそう思う。

 前世では母親や父親がいる事に憧れを持っていたが、今でははっきりとそれがどれほど素晴らしい物なのかを理解している。

 勿論俺を育ててくれた師匠が不器用ながらも愛してくれていた事は分かって居たが、それでもどうしても考えてしまう事があった位だからな。


「まぁ、そうだな」

「うん!」


 初めは恥ずかしがっていた美月も今では手を繋ぎながらも普通に話せるようになっていた。

 その後俺達は楽しく会話をしながらバイト先に向かった。

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