第35話 結衣との昼食

 学校の昼休み、俺と結衣は空き教室で昼ご飯を食べている。

 心なしか今日の結衣はちょっと様子が変だ。

 と言ってもそんな如実って訳でも無いがどこかソワソワしていたり暗かったりしているって感じで気付かない人は多いだろう。


「慶君?先週からずっと一緒にお昼ご飯を食べてるけど迷惑じゃない?」

「そりゃ当然迷惑とか思って無いぞ?寧ろ嬉しいくらいだしな」

「そっか。良かった……所で慶君?慶君ってお姉ちゃんとか居る?」


 お姉ちゃん?何で急にそんな事を聞いて来るのかは分からないが俺は一人っ子だ。それは前世も今も同じだ。


「いや俺は一人っ子だから兄弟姉妹はいないぞ?」

「そっか……」


 俺がそう返事をすると結衣は何故か少し暗い表情になった。


「それじゃあ最近親戚の可愛い子にあったりした?」

「いや。あって無いけど……」

「そう……」


 そう言うと更に暗い表情に変わった。

 明らかに結衣の様子がおかしいので俺は聞く事にした。

 

「えっと結衣?どうしたんだ急に?」


 俺がそう聞くと結衣は少し無言になってからこちらをぱっと見て来て言った。


「それじゃあ、慶君って彼女いるの?」

「え?いや、前も言ったけどいないぞ?」


 結衣の顔は至って真剣でふざけている感じでも無いので尚更どうしてそんな事を聞いて来るのかが良く分からない。

 俺がそう思っていたら結衣は勢いよく聞いて来た。


「んー、もうズバッと聞いちゃうね!私見たんだよね……昨日のお昼に慶君が綺麗な年上の女性と楽しそうにデートしている姿をさ……あの女性とはどういう関係なの?」

「はい?綺麗な年上の女性?デート?一体何のことを……」


 何を言ってるんだ?デートなんてしてないんだが。

 大体昨日は母さん以外の知り合いにあってないしな?

 ……いや待てよ?綺麗な年上の女性ってまさか!?

 

 いや確かに俺の母さんって知らない人から見たら彼女に見えてもおかしく無いのか……それ位見た目が若いしな。

 大体あれが俺の母親なんて初見で思う人がいる訳ねーか……

 そっかそれでさっき姉ちゃんがいるとか聞いて来たのか。

 

「えっと……それってもしかしてこの人か?」

 

 俺はそう言ってスマホで母親の写真を見せた。


「そ、そう!その人!」

「あぁ!なる程な……それで勘違いしたのか。えっとな、この人は俺の母さんだぞ?」

「え?えぇぇぇぇ!!でっ!でも慶君の両親って出張中なんじゃ!!!???」


 俺がそう言うと結衣は滅茶苦茶驚いた。

 いやまぁ、俺も転生したての頃は滅茶苦茶驚いたしこれが正常な反応なのかもな。あの見た目で高校生の子供がいるとか想像も出来ないか普通はな。


「だから彼女って事でもなければ当然デートでも無いぞ……ただ短期間だけど久しぶりに出張から帰って来た母親と一緒にご飯を食べに行っただけだぞ?」

「うっ!嘘だよね!?いくらなんでもこの人がお母さんとか……お、お姉ちゃんならまだしも……」

「それが本当なんだよな。確かに子供の俺から見ても母さんは凄く若いからな」

「ほっ!本当なの!?」

「そうだって。それじゃあこれを見てくれれば信じて貰えるかな?」


 俺はそう言って父さんと母さんが出張に行く前に撮った家族写真を見せた。


「この人が父さんでさっきも見せたこの人が母さんだ」

「……そ、そっか……そうなんだね」


 結衣はそう言って安心した様に肩の力が抜けている様だった。

 これってまさか……嫉妬してくれたのか?

 だとしたらかなり嬉しいな。

 そう思い俺は嬉しい気分になった。


「信じてくれたか?」

「うん。信じるよ」

「だったら良かったよ。ていうか別に俺を見た時にでも連絡してくれたら教えたぞ?何なら話しかけてくれても良かったしな」

「それは無理だって。もし彼女さんだったら物凄く気まずいでしょ?」

「……まぁ、確かにそうかもな」

「それに私も一人じゃなかったしね」

「そうなのか?」

「うん!久しぶりに美月と明香里ちゃんと一緒にお買い物をしたりして遊んでたの!」


 美月と明香里も居たのか……それだったら二人も結衣みたいな勘違いしちゃってるのかな?

 だとしたら後でちゃんと訂正しないとな。勘違いさせておくのも良くないしな。


「そうだったんだな。なら美月と明香里も結衣みたいな勘違いしてるのかな?」

「してるよ。凄く気にしてたね」

「マジか……」


 やっぱりそうなんだな。これは流石母さんと言うべきなのか……


「あ!そうだ!さっきの写真さ私に……いや違うな。慶君は美月と明香里ちゃんにも母親って言って写真を見せるつもりだよね?」

「まぁ、そうだな。美月と明香里が勘違いしているんだったらそれは解かないとだしな」

「じゃあさ!折角だから私達四人のグループLIEN作ろうよ!」

「四人のグループLIEN?」

「そう!良い機会だしさ……どうせ二人にも教えるなら今グループLIENで写真送って教えちゃおうよ!二人も気にしてるしさ!」


 それは良いんだけど二人は高堂と酒井と一緒に食べてるんだよな?それだったらもし見られたら良く無いんじゃ?

 いちいち覗かないとは思うが目に入る可能性も無くは無いしな。


「今は高堂と酒井と一緒にいるだろうし二人にバレたらマズくないか?」

「大丈夫だよ。空と哉太君は前から毎週月曜日は違うクラスの人も含めて仲の良い男子で食べてるからね。それに慶君はもう空の事は気にしなくて良いよ?私達がそれを望んでるんだからね」


 そうだったのか……俺は転校してからずっと教室で食べてなかったから知らなかったな。

 それに確かにそうだよな。高堂を気にして結衣たちと関わるのもおかしな話だよな……前よりは気にしなくなったが今でも俺は結衣たち五人の関係性も多少なりとも気にしてた節はあるしな。

 まぁ、結衣がそう言うならこれからはそうしようか。


「そっかじゃあこれからはそうするよ。それで今は二人で食べてるのか?美月と明香里は」

「うんそうだよ!それでさ?今度二人もここに連れてきていい?」


 まぁ、今更高堂を気にして断る訳も無いから当然問題はない。

 俺も美月と明香里ともっと仲良くしたいしな。


「勿論大丈夫だぞ」

「ありがとう!二人も喜ぶよ!」

「そうか?」

「うん!絶対にね……それとね、これは慶君には言わないといけないから言うけどさ……実は昨日空から電話来て、慶君について悪く言った事を謝ってくれたから一応仲直りって形になったんだよね」

「え?そうなのか」

 

 それはちょっと意外だった。

 まさか今更高堂が謝るとは思っていなかった……それくらい時間が過ぎていたからもはや後に引けないんじゃないかと思っていたんだけどな。

 まぁ、対象が俺って事も含めてな。


「でもね慶君?」

「ん?なんだ?」

「私はもう空の事好きじゃないからね?」

「え?」


 俺は急な言葉にそう反応した。

 正直に言うとそんな気はしていたが今そう言われるとは思っていなかった。

 

「お互いの両親の仲が良いし、明香里ちゃんの兄って事もあるから幼馴染として仲直りはしたけどこれから先絶対に空を好きになる事もないからね。だから私が慶君に恋愛相談する事はもうなくなっちゃたね♪」


 結衣は真剣な表情から場を和ませる様に一変してにっこりとしてそう言った。

 

「そっか。でもさ結衣?俺は確かに恋愛相談役になってたけどさ……相談されたのはカフェでの一回だけだったぞ?」


 俺はわざと冗談っぽくそう言った。


「ふふふ、確かにそうだったね。まぁ、慶君と居る時が楽しかったからそのせいだね♪」

「それは良かったよ。楽しかったのが俺だけじゃなくてな」

「そっか。慶君も楽しかったんだね。良かった」


 結衣は満面の笑みでそう言った。

 そんな結衣を見る度に俺は日に日に惹かれているんだなと感じていた。

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