第34話 高堂空と酒井哉太

★高堂空(side)


「なぁ、空?やっぱりお前から謝らないとだって……そろそろな?」


 俺は休日に哉太と哉太の家で駄弁っていた。


「……でもな」

「俺には結衣さんが本気で怒ってる様に見えるぞ?大体結衣さんからしたら言っちゃえば恩人の悪口を言われた訳だろ?今回のは軽口とは訳が違うんだぞ?」


 それは分かってはいるけどさ……

 結衣と神道の仲が良いのも気に食わないし大体なんでよりによっても助けたのがアイツなんだよ。

 俺が謝ったら二人の仲を認めるようで嫌なんだよな。


「まぁ……そうかもな……でもさ?結衣も結衣でその時の事を俺に言ってくれてればこんな事になんなかったと思わないか?」

「んー、でも美月がそれは俺達に心配をかけたくなかったからって言ってただろ?それに終わった事だしって」


 それでも言うべきじゃないのか?そんな浅い付き合いでもないだろうが……

 とにかく俺は神道の事は気に入らないんだよ……サッカーでも邪魔されたしな。


「でもさ、アイツはやっぱり好きになれないんだよ」

「あいつって神道か?」

「あぁ、哉太はどうなんだ?」

「まぁ、それは空の勝手だけどさ。せめて結衣さんの前ではその素振りは見せるべきじゃないぞ?俺だって、いや誰だって友達をそんな感じで見られたら嫌な気持ちになるぞ?空だって結衣さんがそう思われてたら怒るだろ?」

「当たり前だろ!!」

「な?それと一緒だよ?これ以上こじれる前に謝れよ?それと俺は神道の事はどうとも思ってねーよ。どんな奴かも知らないんだから嫌いも好きもないよ」

「……」


 俺はそう言われてやっと結衣があんなに怒った理由が分かった。

 でも結衣からしたら俺と喧嘩する程神道と仲が良いのか?

 そう思うと凄くイライラしてくる……いやでもここはやっぱり哉太の言う通りにした方が良いよな。

 夏休みも近いし今のままじゃな……

 俺から謝れば結衣は許してくれるはずだ。今までもそうだったしな。


「そうだな……結衣には謝るよ」

「それが良いぞ。後さ?空って明香里ちゃんと何かあったのか?」

「え?どうしてだ?」

「いや……なんか前よりもぎこちないぞ?最近の二人は……いや二人と言うよりかは空が変なのかな?明香里ちゃんは普通かも」


 確かに明香里とはあのストーカーの件があった時以来すこし気まずく感じる事もないとは言えないが、明香里も全然気にしていなかったし俺も結衣の事で頭がいっぱいだったしな。

 そんな訳だから俺としてはそんなに変わった気はしていなかったが無意識のうちにそうなっていたのか?それとも結衣を気にし過ぎて明香里と適当に接し過ぎてたのか?

 どちにしろ哉太は良く分かったな?いや、俺が分かりやすいだけなのかもな……

 でもまぁ、明香里は別に大丈夫だろう、明香里自身がいつも通りな訳だしな。


「いや、明香里の事は問題ないよ」

「そうか。それじゃあ空は結衣さんに対してしっかりな?」

「あぁ」


 それから俺達は楽しく遊んでから解散した。



 

 ――その日の夜俺は結衣に電話をかけた。


 明日からまた学校が始まるが哉太には早ければ早いほど良いと言われたので今日謝る事にした。


『……どうしたの空?』

『えっと。結衣?』

『何?』


 俺は深呼吸をしてから勢いに任せて言った。


『ごめん!!!!』

『ごめんって何について?』

『何ってこの前に事だよ……俺達が喧嘩した時の……神道の事で悪く言った事だ』


 神道の事は相変わらず気に食わないが結衣を助けてくれたしな……

 今はちゃんと謝って置こう。


『そう。まぁ、謝ってくれたなら許すよ。慶君だって許してる訳だしね』

『け……慶君?』


 結衣と神道は名前で呼び合ってるのか?いつの間にそんな関係に?もしかして既に?いや……そんな訳無いよな……

 俺はそれを聞いて心臓がバクバクしていた。


『ん?どうしたの?』

『結衣は神道の事をそう呼んでるのか?』

『そうだよ?別に友達なんだし可笑しくないでしょ?哉太君だってそうだよ?』

『そ、そうだよな……それじゃあ別に神道とは友達って事だよな?』


 俺は恐る恐るそう聞いた。


『そうだけど?』

『そっか。そうだよな』


 俺はそれを聞いて安心した。

 あいつはただの友達で俺は幼馴染だから大丈夫だと。

 俺が心配してた事にはなっていなかったなと。


『何か変だけどどうしたの本当に?』

『いやいや!なんでもないよ!それより仲直り出来て良かったよ!』

『そうだね。それじゃあ私はこれからご飯だからそろそろ切るよ?』

『あぁ、そうだな!それじゃあな』

『うん』


 そうして俺は電話を切ってベッドに倒れた。


「ふぅー、何だ全然大丈夫じゃないか」


 思ったよりも簡単に許してくれたし神道とも特別関係じゃなく友達らしいし。


「そうだ!明香里にもちゃんと言っておかないとな結衣と仲直りしたってな」


 俺はそう思いリビングルームへと向かった。


 ――リビングルームに着くと明香里はソファーに座って誰かと連絡を取っている様だった。


「明香里?」

「あ、兄さんどうしたんですか?」

「今大丈夫か?誰かと連絡しているみたいだったけど?」

「はい。大丈夫ですよ」

「そうか。俺やっと結衣と仲直り出来たぞ!今までごめんな気まずい感じになっちゃてて」

「私は大丈夫ですよ。仲直り出来たんですね。おめでとうございます」

「あぁ、ありがとう!これで今年の夏休みは五人で遊べるな!!」


 俺がそう言うと明香里は少し黙ってから言った。


「えっと?結衣さんが五人で遊び行こうって言ったんですか?」


 去年は四人だったけど今年は明香里も居るし五人だろ?何を言ってるんだ明香里は?

 それとも明香里は結衣に仲間外れにされてるとでも思ってるのか?


「え?言って無いけど去年は四人だったんだから今年は五人だろ?結衣が明香里を省く訳ないだろ?」

「そうですか。まぁ、夏休みも私は勉強をする事もあると思うのでまだ分かりませんけどね」

「あぁ、勉強の邪魔はしない様にするよ」

「はい。それじゃあ私は自分の部屋に戻りますね」

「あぁ……」


 明香里はそう言ってリビングルームを出て階段を上がって行った。


「何か明香里変だったよな?……まっ!いっか」

 

 ちょっと違和感を感じたがそれだけだ。

 いつも通りと言えばいつも通りだし俺の勘違いだろう。

 そんな事より今は結衣と仲直り出来て気分が良いしな。


 俺はそんな事を思いながら部屋に戻って行った。

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