第32話 三人の想い(中)

★高堂明香里(side)


「明香里ちゃん?次は明香里ちゃんの番だよ?明香里ちゃんも慶君の事が好きなんだよね?」

「わ、私は別に……」


 正直二人が兄さんじゃなくて神道先輩の事が好きとは思ってもいなかった。

 

 結衣さんが言う通り私達は同じ男性……兄さんに対して恋心があった訳で気まずい関係ではあった……まぁ、私に関しては最近勘違いだと分かりましたけど。

 それに兄さんも兄さんで私達の誰とも関係を進めようとせず自分の事を優先させてしまうからそれもあり尚更ややこしいかったんだと思う。


 いや、今は兄さんの事はどうでも良くてそれより神道先輩の事だ。

 私は二人と違う人を好きになった事もあり近いうちに相談しようとしていた。

 それなのに今この状況だ。


 折角二人と違う人を好きになったと思ったのに……

 

 私は二人の神道先輩の想いを聞いた後、自分の想いも聞かれたが言いにくかった。

 だって二人が神道先輩の事を話している姿を見れば本気で惚れているんだと伝わって来たからだ。

 兄さんの事が好きなんだと気付くのには数ヶ月かかったのに神道先輩に対しての想いはさっきのだけでも分かってしまう。

 恋に鈍感な私でも分かっちゃうレベルで二人は神道先輩の事が好きなんだ……


 私がそんな事を思っていたら二人が言った。


「大丈夫だよ?さっきも言ったけど分かってるからさ正直に言ってみてね。ね?美月?」

「そうだね。明香里ちゃん、今は三人で正直に話そう?私達に気を遣う必要なんてないからね?」


 二人は私が考えていた事が分かっているかの様に優しい表情でそう言って来た。

 正直にか……私は間違いなく神道先輩の事を好きになっていると言い切れる。

 言っちゃえば兄さんへの想いが勘違いだと理解したのでこれは私の初恋だ。


 そう思ったら二人に譲って諦めたくないとも思う……

 

 ……いや、それよりも私が我慢して譲るなんて事は今の二人を見ても分かるけど絶対に求めている答えじゃないんだろう。

 大体二人にこんな顔されたら嘘つくなんて無理だよね……ううん。それもあるけどやっぱり私が神道先輩の事を諦めたく無いんだよね。

 今は今後の事は考えないで二人に正直な気持ちを話そう!

 

 私はそう思い至り正直に話す事に決めた。


「わかりました。それなら私も正直に話しますね……二人と同じ様に私も神道先輩の事を好きになってしまいました」

「うん。やっぱりそうだよね」

「薄々だけど何となく感じてたよ。それで理由も聞いてみても良い?」

「はい。二人には心配をかけるだけだと思っていたので話していませんでしたけど実は先日私は……」


 私はそう言われて素直に話す事にした。

 神道先輩がストーカーから助けてくれた事。

 その時初めてドキドキと言う感情を抱いてそれが恋なんだと気づいた事。

 それにつれて兄への感情は私の恋愛知識の浅さから来る勘違いで、好きだったわけでは無かったので神道先輩が初恋だと言う事を。


「え!?大丈夫だったの明香里ちゃんは!!!」

「そうだよ!何で教えてくれなかったの!!」


 二人は私の神道先輩への想いを聞いても気まずくなったりとか嫉妬をする事が全くなく寧ろ私の事を心配そうにして来た。


「はい。神道先輩が助けてくれたので」

「そっか。本当に良かったよ」

「本当にそうだね」

「それにしてもやっぱり慶君なんだよね……」

「そうだね。結局私達三人は全員慶君が居なかったら本当にまずい状況から助けてられたんだね」

「そう……ですね」


 どうしてだろうか……兄さんへの想いを隠している時はあんなに気まずかったのに今は二人ともそんな雰囲気が全くない。


「はぁ、私達って本当に同じ人を好きになっちゃうんだね」

「そうだね。でもまぁ、しょうがないんじゃないかな。慶君が悪いよこれはさ……聞いてて思うけどさ、言動がかっこよすぎるじゃん。勿論かおもだけどね。二人が好きになるのも当たり前だよ」

「ほんとだよねー」


 楽しそうにそう話す二人を見ていると私も先程までの心配がなくなって来た。

 

「それじゃあ、これからどうするか考えようか」

「これからですか?」

「そうだよ。だって好きな人が同じなんだからそこら辺は決めておかないとでしょ?今日はそれを決める事が大きな理由で二人に話し合おうって言ったんだからね。後空の事もね……どっちから話す?」


 神道先輩とのこれからの話と兄さんの話か……

 結衣さんはそう言うがこれからなんて私には分からない。

 大体恋について相談しようとしていた位なんだから……


 兄さんの話についてはしておくべきだよね。

 どっちを先に話すかと言えば出来れば兄さんの話が私的良いと思う。


 私がそう思っていたら美月さんが言った。


「じゃあ空君の事からが良いな」

「私もです」

「そっかじゃあそうしようか」

「でも兄さんの話って何を話すんでしょうか?」

「そうだね……正確には空達かな?今は空って表現したけど哉太君も含めての話だね。私を含め二人も空に対して恋愛感情を抱いていない事は分かったからそこはもういいからさ」


 確かにそう言われればこの話をしたんだから今まで通りって訳には行かない。

 大体最近は私も兄さんに対して思う事がありましたしね。

 ストーカー事件の後の兄さんはほとんど私に対しての関わり方が変わらなかった。

 まぁ、あの日の事を反省していてそうなっているなら私的にも多少は納得できるけどどうやらそうじゃ無く、ただただ結衣さんと喧嘩したせいで私の事を気にしていないと言う方が正しい。

 勿論無視をするとかは無いが、あの日の事については後から大丈夫だったのか?と一言聞いただけでそれ以降は全く何も無かったのかのようだし私の事よりも結衣さんと喧嘩した事の方が大きいのだろう。

 そんな訳だから私も兄さんとは変わらずに関わっているが、当たり前だが恋心はゼロなので兄さんと神道先輩のどちらを優先するかと言われれば考えるまでもなく神道先輩の事だ。

 酒井先輩については私もほとんど分からないから言える事は無い。同じグループに居ても二人っきりで話した事もないし、友達と言えばそうだと思うけど結衣さんと美月さんと比べたら全然だ。勿論他の男性と比べたら全然仲が良いと言えるがその位の関係値だから私から言える事はなさそうだ。


「哉太はちゃんと話せば理解してくれると思うよ?」

「そうなんですか?」

「話すって私達が全員慶君が好きって事を?」

「そうだよ」

「え?でも私的には哉太君って美月が好きなんじゃ……」


 え?そうだったの?全く気が付かなかった。

 いくら私が鈍感だと言っても一年半くらい一緒のグループに居て気付かないなんて……


「ははは!それはないよ。だって哉太には彼女いるよ?」

「え、えぇぇぇぇ!」

「そうなんですか?」


 結衣さんは凄く驚いている。

 私は冷静に返すが少しは驚いている。


「でもそんな素振り無かったけど……」

「まぁ、そうだね。私も哉太が話さないから黙っていたけどこの際だから言うね。哉太は中学二年生の頃から同じクラスだった子と付き合ってるんだよ。今は相手の親の仕事の都合上遠距離恋愛になってるけどね。その子の写真もあるよ。中学生からの仲だけど私とも仲良かったからね」


 そう言ってスマホの写真を見せて来た。

 酒井先輩は少しチャラそうな見た目だが写真に写っている女性はあまり目立たなそうな大人しい感じの女性だった。

 私的にはもっとギャルみたいな子をイメージしていたので意外だった。


「本当にこの子が?」

「そうだよ。なんなら哉太から告白したし私も手伝ったんだよ」

「そうなんですね」

「そうそう!だから私の事を好きはまずあり得ないんだよ。それに私も哉太に対して特別な感情を抱いた事はないしね」

「そっか。それじゃあ哉太君に話す?」

「んー、まぁ、しばらくは様子を見つつが良いんじゃないかな?私達もずっと空君と哉太と一緒に居る訳でもないしね。他に友達も居るんだから」

「たしかにそうですね」

「まぁ、それじゃあ取り敢えずは今までと変わらず友達で居るって事だね」

「でもそれじゃあ慶と一緒に居れないかな?」

「た、確かに……神道先輩と兄さんの二人は仲がよくありませんからね……」


 二人が仲良く無いのに私達が神道先輩と仲良くすると神道先輩に迷惑をかける事になるかも知れない。


「まぁ、深く考えなくても良いんじゃないかな?もし問題があればさっきも言ったけど哉太君に話していざとなれば正直に空に言えば良いよ。慶君が好きだってね」

「そうれもそうだね。別にどうしても隠したい訳じゃ無くて出来るだ穏便に済ませたい訳だしね、慶が好きなだけで別に空君や哉太を嫌いになった訳でも無い訳だから」

「確かにそれが良さそうですね……所で兄さんは私達の事をどう思っているのでしょうか?」


 私はふと気になりそう言った。


「どうかな?私は良く分からないな?何て言っても超鈍感だしね……あそこまで行くとね……ちょっと想像もつかないな」


 美月さんは首を傾げてそう言った。


「そうだね……正直に言うと私も分からないな。大体私は大切にされてた覚えも無いしね。約束は忘れるし空の為に勉強を教えるからしろと言っても喧嘩になるわでね……それに私達以外の女子にも鼻の下を伸ばしている時もあるしね」


 確かにその姿は私も見て来ていた。

 私自身はその姿を見ても全く嫉妬しなかったが今では分かるがそれは恋じゃ無かったからだ。


 私がそう考えていたら結衣さんは続けて話した。


「まぁ、この話はここら辺で終わらせて次は慶君の事について話そうか。こっちの方が大切だしね」


 その言葉に私と美月さんは無言で頷いた。

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