第31話 三人の想い(上)

 私は美月と明香里ちゃんを連れて私の家へとやって来た。


 今は三人で私の部屋に座ってから一息着いてから話始めた。


「私が急に話し合おうと言った理由を美月は分かってるよね?」

「うん。分かってるよ」


 私が真剣な表情でそう聞くと美月は頷いてそう言った。


「明香里ちゃんは良く分かっていない。そうだよね?」

「そうですね……」

「じゃあ、率直に聞くけど明香里ちゃんはさっき慶君が綺麗な女性といる姿を見てどう思った?」

「……」

「今は正直に答えて欲しいの」

「そ、それは……」


 私の問いに明香里ちゃんは恥ずかしそうかつ悲しそうに言い淀んでいる。


「びっくりしたよね?それと悲しかったし今でも凄く気になっているんだよね?あの女性が誰なのかを……」

「なっ!何で分かるんですか……」


 私がそう言うと明香里ちゃんは驚いてそう言った。

 明香里ちゃんはこの手の話題に鈍感だから不思議に思うかも知れないが、さっきの悲しそうな顔を見れば一目瞭然だ。

 美月も当然気付いているしね。


「私が今日話し合うって言ったのはそれこそ慶君についての話なんだよ。私達ってさ……お互いがお互いに空の事が好きだと思っていたでしょ?」


 私がそう言うと二人は無言で頷いた。


「そうだよね。それで私達って気まずくなっていたりもしていたでしょ?お互いに気を遣ってその話題をあえて避けたりもしてたよね」


 二人が私の話を真剣な表情聞いているのを見て私は話し続けた。


「それでもいずれは変わる関係であり、いつかは向き合う日が来るとは思っていたんだけどね、やっぱり何処かで私達三人の関係性が崩れるかもと思うと凄く怖かったんだよね。明香里ちゃんとは結構長い付き合いって事もあり当然だし、美月とも一年ちょっとの付き合いだけどそれ位私からしたら二人とも大好きなの」

「うん……」

「そう……ですね。でも私はもう兄さんの事は……」


 明香里ちゃんはそこまで言って口を閉じた。



「分かってるよ明香里ちゃん……それも含めて三人の気持ちをちゃんと話し合いたいなってね……今後も一緒に仲良くするためにね。また同じ展開を迎えない為にもね。だから私は二人にはっきりと言うね。美月は気付いて居ると思うけど私は慶君の事が大好きなの……」

「え?し、神道先輩!?」


 私がそうカミングアウトすると美月は軽く頷いて明香里ちゃんは凄く驚いた表情をしている。


「多分明香里ちゃんは私が慶君の事を友達としか思っていないんだろうと思っていたんだよね?」

「は……はい……だって……」


 だって……で止まった明香里ちゃんは恐らく空の事を言おうとしてやめたのだろう。


「前に五人でカラオケに行ったじゃん?あの時明香里ちゃんは私に様子が変だって言ってた事があったよね?実はその時には既に慶君の事が好きだったんだよね……でも空に対しても恋心が多少なりともあったのも事実だよ。取り敢えず二人には私が慶君と出会ってからの事を全部隠さずに話すね。」


 二人は再び黙って頷き私は慶君と出会ってからの事を包み隠さずに話した。

 そして慶君を好きと言う事も空への気持ちが今は無い事も全て話した――


「そうだったんだね……私も何かあったのは知っていたけどやっぱり慶は慶だね。結衣ちゃんが安心感を覚えるのも本当に理解できるよ」

「……て事は結衣さんは今は兄さんじゃなくて神道先輩が好き……って!けっ、慶!?美月さんいつから……」


 美月は私が慶君の事が好きと知っていた事もありそこまで驚いていないが明香里ちゃんは考え込む様に驚いた後に美月が慶と呼び捨てした事に驚いている。

 ……ていうかそれについては私も凄く気になる。


「それは私も気になるかな……次は美月に話して欲しいな」

「そうだね。取り敢えず私も慶が好き……これは間違いない。いつからと言ったら……実は私もあの時のカラオケの時から慶の事は気になっていたの」

「そうだったんだね……」

「……」


 その時からそうだったんだ……てことはやっぱり慶君に助けられた時にって感じなのかな?

 

「それで最近バイトが同じになってそこで勇気を出して名前で呼び合いたいって言ってみたの……」

「え?美月から言ったの?」


 それは正直に言って意外だ。

 美月がそこまで積極的に行くとは思っていなかった……もしかしてそれ程に……


「そうだよ。ごめんね……結衣ちゃんが気持ちがあるって知っていたんだけどどうしても気持ちが抑えられなくなっちゃって……」

「ううん。それは大丈夫だよ……でも空への気持ちはどうなの?」

「空君だったら正直に言っちゃうと今では友達かな……元々二人と比べたら付き合いも短いし好きって気持ちも小さいなとは思っていたしね……それと結衣ちゃんは知ってると思うけど実はね……」


 美月は私も知っている慶君に助けられた時の事や慶君が好きという思いを話し終えた――


 そうなんだね。

 慶君と空を比べるのもおかしな話ではあるけど正直に言ってしまえば安心感がまるで違う。

 それでいてドキドキさせられるし美月が同じ感情を持っていても全くおかしくはない。

 私もそれを感じてからは嘘の様に空への気持ちが恋愛として好きから幼馴染の友達に変わって行ったしね。

 空は自分の気持ちを優先しがちで相手の事を後回しにしちゃう傾向もあるし尚更ね……


 ていうか私が慶君の想いが強いと感じ取った美月が気持ちを抑えられなくなって勇気を出して名前で呼び合いたいなんて言うとは思っていもみなかったな……美月もそれ程慶君の事が好きなんだな……


「……み、美月さんも……?ちょっと待って下さいね……」


 戸惑いながらそう言って明香里ちゃんは何かを考えだした。

 

 私達は明香里ちゃんが落ち着くのを待つことにした。


 ――それから数分後明香里ちゃんが話し出した。


「取り敢えず分かりました……それじゃあ二人は現在兄さんでは無く神道先輩が好きと言う事ですね?」


 先程慌てていた明香里ちゃんとは打って変わって冷静にそう言った。


「「うん」」

「そうですか……」

「明香里ちゃん?次は明香里ちゃんの番だよ?明香里ちゃんも慶君の事が好きなんだよね?」

「わ、私は別に……」


 私がそう言うと明香里ちゃん慌てたように言い淀んだ。

 もしかしたら私達に気を遣っているのだろうか?

 

「大丈夫だよ?さっきも言ったけど分かってるからさ正直に言ってみてね。ね?美月?」

「そうだね。明香里ちゃん、今は三人で正直に話そう?私達に気を遣う必要なんてないからね?」


 その言葉に明香里ちゃんは暫くして答えた。

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