第30話 三人の休日

★遠坂結衣(side)


「こうやって三人でちゃんと遊ぶのも一月振りくらいだね」

「そうだね。テストだったり色々と時間もなかったからね」

「確かにそうですね」


 私は今日、美月と明香里ちゃんと一緒に買い物に来ている。

 最近……と言っても数日だが私が空と喧嘩した事もあり一緒に居る時間が減った事ので今日は私から二人を誘った。

 私は今では哉太君とも距離を置いている状態なので勿論空とは目も合わせていない状態なのだが、それでも空は私に謝る素振りも見せて来ないので最近ではかなり見損なっている現状だ。

 そんな訳で私達の関係はあの日から何も変わっていない。


 ――私達は買い物を一通り終えて今は歩きながら話していた。

 

「そう言えばもう少しで夏休みになるね」

「そうですね。後二週間くらいですね」

「今年は明香里ちゃんも居るし楽しみだな」

「私もですよ」


 二人の会話を聞いていて私は思った。

 去年の夏休みは四人で遊ぶことが多かったのだが今年はそうはならないだろう。

 私はそう思い二人と哉太君に対して申し訳ない気持ちになっていた。

 哉太君には友達以上の気持ちは全くないが、それでも一年間一緒にいた仲だし、二人ももしかしたら楽しみにしていたかも知れない……

 それに明香里ちゃんに関しては去年中学生だった事もあり居なかった訳だから尚更かも……

 

「そうだね……」


 私はそんな事を思っていた事もあり少し暗い表情でそう言ってしまっていた。

 私の表情を見たのか美月は慌てて話し出した。


「あっ!ごめんね結衣ちゃん!ただ夏休みだなって思っただけで別に大した意味はないんだよ!」

「大丈夫だよ……分かってるから……でも二人は私に気を遣わないで空達と遊んでも……えっ?」


 私は美月の方を向いて話している途中、とある人が視界に入って来て今していた会話の内容が全て飛んでいた。


「どうしたんですか?結衣さん」

「そうだよ?何かあったの?」

「え、い……いや、あ、あそこに……」


 私は驚き過ぎて口が回って居なかったが指を指して二人に伝えた。

 そこにはレストランで楽しそうに大学生?らしきとんでもない美人さんと話している慶君の姿があった。


「え?あれって……けっ、慶!?」

「…………」


 美月は驚いきつつもショックそうにそう言った。

 明香里ちゃんに関しては顔が真っ青になっていた。


 あの女性の正体を知りたい……もしかしたら彼女なの?

 でも慶君は前に彼女は居ないって言っていたし……

 それにしても凄く仲が良さそうだ。

 

 私はそんな事を思っていたのだが、隣にいる二人の反応を見て逆に冷静さを取り戻した。


 美月は正直慶君に惹かれているんだろうなと思っていたが、いつの間にか名前呼びに変わっている。

 意外なのが繋がりがほとんどないと思っていた明香里ちゃんが顔を真っ青にして悲しそうな表情で慶君の事を見ている。

 これを見たら誰でも慶君に対して特別な感情がある事は明らかだ。

 

 もしかしたら私の知らない所で二人と慶君との間に何かあったのか……

 私はそう思い前までの私達の関係性がフラッシュバックしてきた。


 空を好きな三人……私達は親友でありお互いに大好きだ。

 でも親友だからこそ同じ人を好きになってしまっていた事が時々気まずさを感じさせていた。

 仲が凄く良い事もありその話をすると関係性が崩れると思っていたので表には出せなかった。

 それは二人も同じことを思っていただろう。

 いずれは変わる関係……でも時間が経てば経つほど話しづらくなって行く。


 このままじゃまた同じ事を繰り返してしまうかも……

 私は慶君の事が大好きだけど二人も大好きだ。

 そう思ったら私が今するべきことを理解した。

 二人とは大人になっても仲良くしたいからね……絶対に。

 今回はちゃんと話し合おう!!!


「二人とも!!!」

「「え?」」


 私の大声に二人はびっくりしてそう反応した。


「私達はちゃんと話し合った方が良いと思うの!これからも仲良くするためにはさ!」

「……そうだね。ごめんね……その……同じ人を……」


 私が真剣な顔でそう言うと美月は私が何を言いたいのかを理解したのか謝って来た。

 これで確信したが美月も慶君の事が好きなんだ。それに私が慶君の事が好きだと言う事も気付いていたんだね。

 でも謝るのは間違っている……美月が慶君の事を好きになるのに私から許可される必要もなければ他の人にあれこれ言われる筋合いもない。

 

「大丈夫だよ。でも今回はちゃんと話し合おう?」

「そうだね……」


 私が笑顔でそう言うと美月も少し楽な表情になった。

 明香里ちゃんは……私達が何を言っているのか理解してなさそうだ。

 そう言えば美月と私は薄々お互いに慶君の事が気になってると思っていたと思うが明香里ちゃんは全然分かってなさそうだったな。

 もしかしたら私は慶君とは友達として仲が良いとしか思っていなかったのかな?まぁ、明香里ちゃんらしいけどね。

 

「……何を言っているんですか?」

「取り敢えず場所を移動して話そう?明香里ちゃんにも関係ある話だと思うからさ」

「……そうですか?分かりました」


 明香里ちゃんはそう返事をするがあの女性が気になるのか元気が無い。


 そうして私達は場所を私の家に移す事にした。

 

 私も当然慶君とあの綺麗な女性との関係性は本当に気になるけど割り込んで邪魔する事なんて出来ないし今は二人と話し合う事が優先だ。

 二人が慶君に好意を抱いているのはほぼ確定しているがそれがどの位かも気になる。それに空の事もね……

 

 今回の話し合いでもしかしたらもうあの五人で遊ぶことはなくなるのかも知れない。私と空の喧嘩を考えないとしてもね。

 好きな男性と一緒に居たいなんて当たり前の感情だし。

 

 それに私が慶君に惹かれた様に二人が惹かれるのも納得がいく。

 私が私だけの意見を主張するならこれからも二人、そして慶君と一緒に居たいのでこれからは四人で居たいのも本心だ……

 でも二人からしたらそれは簡単な話ではない。まずどのくらい慶君の事が気になっているのかも確かじゃないし、美月は哉太君と幼馴染な訳だし明香里ちゃんは空の義妹だ。

 それに私と違って喧嘩をしているわけでも無い。


 だからこそ今日話し合うべきなのだ。

 勿論私は慶君の事を諦めるつもりは一ミリも無いけどね……でももし二人も同じ気持ちなのだとしたらもしかしたら……

 慶君だったら空と違って安心感もあるし大切にしてくれる確信もあるしね……

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