第29話 帰って来た母さん
(ピコン)
「ん?誰からだ?」
明香里の家におじゃました翌日の日曜日。バイトの予定も入っていなかった俺は家の掃除していた。
掃除の手を止めた俺はスマホを手に取って画面を見た。
"ヤッホー!慶!あと一時間くらいで家に着くから待っててね!"
そう送って来る主は……出張中の俺の母さんだ。
いや、出張に行ってたと言った方が正しいなこの感じだと……
俺の反応で何となく分かるかも知れないが今日帰って来るなんて全く聞いていない。
俺の母さんはオフになるともの凄く若々しいと言うかなんと言うか、めちゃ元気な高校生って感じなのだ。
俺がこの世界に転生してから二十日後には父さんと揃って出張に行ったのだが、その期間ですら凄かった。
それでも子供の俺を本気で愛してくれてるって事は伝わっていたし、こういった砕けた感じになるのは身内だけだからまぁ、問題はないのだろう。
そんな母さんだが、仕事になると超優秀で真面目な社会人へと変貌を遂げる。
父さんと母さんが務めている会社は凄く大きな会社なのだが、そこで二人共割と高い地位に居るらしいしね。
父さんは良い大学を出ていてかなり優秀で仕事でも結果を残していて、母さんはそんなにレベルの高くない高校を卒業した高卒だがそんなのは関係ないと言わんばかり結果を残し続けて父さんに遅れを取っていないらしい。
あっ!後もう一つ母さんについてなのだが、母さんは四十近いとは思えない位見た目が若く美人だ。
大学生と言っても通じる位にはね。
父さんはイケメンでは無いがブサイクでも無いまぁ、普通の顔だが真面目で優しい所に惹かれて結婚したらしく、今でも夫婦愛は凄まじいと息子視点で見ても思う。
一応言っておくが母さんがいくら美人で若々しいからと言って俺が特別な感情を抱く事は一切ない。
転生してから長く関わった訳では無いが俺は家族として、母親としては大切だし大好きにはなっている。もしかしたら遺伝子的にそうなる様になっていたのかもね……まぁ、適当に言ってるけど。
そう考えてもおかしくない位には父さんと母さんと一緒に過ごして全く違和感がなかったのだ。
そんな訳で俺が母さんに抱いている感情は家族愛以外の何物でも無く、不純な感情はゼロだ。あと父さんも同じ位好きだしね。
「まぁ、母さんらしいな……」
俺はそう思いつつも母さんが来る前に掃除を終わらせようと掃除のスピードを上げた。
◇
――約一時間後。俺が掃除を終えてリビングルームでゆっくりとしている時のことだった。
玄関のドアが開く音が聞こえたと思ったら母さんが部屋に入って来た。
「ただいまー!慶!」
そう言って母さんは俺に抱き着いて来た。
頬をぐりぐりくっつけて来るが俺に対するスキンシップが凄いのは昔らかだと記憶していたし、あの二十日間でも充分と言える程体感したのでもう慣れている。
「お帰り母さん。それでどうして急に帰って来たの?父さんは?」
俺がそう言うと母さんはピタッと止まって話し出した。
「えっと、私が帰って来たのは本社の方で問題が起こったから臨時で帰って来ることになっただけだよ。出張先の方も丁度落ち着いて来た頃だからお父さん一人でも暫くは問題なさそうだったからね。」
「それで急に帰って来たんだね」
「そうそう!だから問題が解決し次第また行かないといけないからさ……」
そう言ってまたくっついて来た。
「母さん……俺はもう高校生だからね?」
「分かってるけどまた暫く会えなくなっちゃうから……」
うるうるした瞳で母さんはそう言って来た。
俺の記憶には母さんが働いている姿の記憶も残っているが本当にギャップが凄いんだよな。
俺はそんな事を思いつつも返事をした。
「まぁ、人がいない所だったら良いけどね……」
◇
――俺は今母さんと昼食を食べる為に外食に来ていた。
母さんはこの後少ししたら会社に行かないといけないらしいが、それまではと言われ連れてこられた。
「母さん、父さんは元気?」
「そうだね。忙しくしてはいるけど元気よ」
時々連絡は取りあってはいるが文字だけじゃ伝わらない部分ではあるので母さんがそう言うなら安心だな。
「ならよかったよ」
「それより慶?転校してから結構経つけどもう慣れた?」
「そうだね。そこそこ慣れたかな」
「良かったわ。お友達は出来たの?」
友達って言われて思いつくのは結衣と美月と明香里だな……
丸山もよぎったけど丸山とはサッカー以外の会話は無いし友達と言えるかは微妙だな。何よりサッカー以外興味がないような人だしな勿論いい意味でな。
「出来たよ。多くはないけどね」
「そう?それじゃあ彼女は?」
「いないよ、どうしたの急にそんな事を聞いて来てさ……」
「急にじゃないよ?私からしたら慶に恋人が出来たら嬉しいもん」
「嬉しい?」
「そうよ?だって将来私の娘になる子でしょ?」
いや。そんな当たり前でしょ?みたいな感じで言われてもな……
流石にそれは気が早すぎるんじゃないか?
「まぁ、取り敢えず彼女はいないから」
「それなら出来たら紹介してね?慶の事だから良い子を選ぶだろうし私もお父さんも楽しみにしてるから」
「出来たらそうするよ」
「それで良いわ。因みに気になる子はいるの?」
「……」
気になる子……そう言われて思いつくのは結衣と美月、それと明香里……
どこが気になるの?と言われれば要因は沢山あるが勿論見た目が良いからってだけではない。
最初の頃は恋愛感情もなかった訳だからそれは間違いない……性格なども含めてだ。
誰かと付き合いたい……今はそこまでは考えてはいないが今後の事は俺でも分からない。
それにゲームではハーレムエンドがあったらしいがこの世界は別に一夫多妻制ではない事もあり尚更だ。
俺がそんな事を思っていたら母さんに話しかけられた。
「どうしたの?そんな難しい顔しちゃって?」
「ううん。何でもない」
「ふーん。その様子だと気になる子はいるのね?」
母さんはニヤニヤしながらそう言って来た。
「……まぁ、そうかもね」
「なる程ね。それでその子の事で悩んでるんだ」
「うん……」
その子……じゃなくてその子達なのだがまぁ、母さんからしたら分かる訳ないよな。
「まぁ、後悔だけはないようにね。自分のペースで良いと思うけど相手の子……いや相手の子達かな?その子達とはちゃんと話して皆が後悔しない道を選んでくれたら嬉しいな」
「え?」
母さんは今間違いなく相手の子達と言ったはずだ……
勿論結衣たちの話をした事はない。それは父さんに対しても同じだ。
「その様子だとやっぱり一人じゃないのね。様子が変だったから聞いてみたけど」
鎌をかけられていたのか……
俺はそんな表に出てたんかな?それとも母さんの勘が鋭いのか?
「そうだね……」
「まぁ、別に気になる子が一人じゃないって珍しくもないしそんなに深く考える事でもないと思うわよ?たださっきも言った通りちゃんと相手の子達と向き合って行けば良いだけだから。その後の事何て想像出来なくて当たり前だしね」
皆と向き合ってか……そうだよな。
この先の事を考えて悩んでる時間があったらみんなと向き合って答えを出した方が良いよな。
「そうだね。うんありがとう母さん、ちょっとスッキリしたかも」
「なら良かったわ!でも相手の子達を悲しませちゃ駄目だからね?私は慶と相手の子達が決めた事だったら何でも応援するし相談も乗るからね?」
母さんは笑顔でそう言って来て俺は母さんの優しさに心が温かくなった。
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